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【青雉】やけ溶けちまえ

シュッ、シュッ、シュッ、と軽快に走る海列車の音と心地良い揺れを感じながらシュアはただ静かに自身の手に持つ書冊の文字を目で追っていた。広い車両には彼女以外の乗客の姿は無く、閑散としたこの空間はやや淋しい気もするが、彼女はそんな一人の世界を楽しんでいた…はずだったのだが…

「あららら、こんなところで美女に遭えるなんてツいてんじゃないの」

突如車両と車両を繋ぐ扉から現れた男によって一人占めにしていた彼女の世界はいとも簡単に崩されてしまった。

拍手[2回]


聞き覚えのあるその呑気な声が耳に届くなりシュアは一瞬眉をピクリと持ち上げ反応を示したが直ぐにまた澄まし顔で羅列する文字へと意識を没頭させた。しかし心なしか彼女の纏う雰囲気が険悪なものへと化したかのように受け取れる。大抵の人間ならば彼女が放つそのような張りつめた空気に恐れ慄き敬遠を図るのだが、生憎この人物はその"大抵の人間"という部類には入らないらしく、気にする様子など一切見せず彼女の隣に大きな身を滑り込ませるのであった。

「席なら他に沢山空いていますけど?」

「まぁまぁ、そんな固いこと言いなさんな。相席ぐらいイイじゃないの」

言いつつ太腿に伸びてくる手をシュアはすかさずベシッと鈍い音をたてて叩き払う。因みに視線は相変わらず書冊に向いたままだ。

「セクハラで訴えられたいんですか?」

「俺は海軍大将だぜ?」

「職権乱用も加えて二重の罪に問われますよ」

「しばらく会わない内に随分とふてぶてしくなったじゃない?」

ふてぶてしいのは今に始まったことじゃないが…とシュアは反論しようとしたが、しかし自分の中の『できれば関わりたくない人物ランキング』上位に該当するこの海軍大将様にわざわざどうでもいいことを訂正して会話を引っ張る必要もないかと瞬時に見切りをつけ、途中まで開きかけた口を再度結んだのだった。
そうして会話が途切れたことで二人の間に沈黙が流れても構わず書冊の頁を捲ろうと手を掛けるシュアだったが、

「はい、没収」

と、瞬時に手にしていたそれを奪われてしまい続きを知ることは叶わなかった。

「ちょっと、返して下さいよ!」

「折角一緒にいるのに本ばっかり読まれたらオジサン退屈しちゃうでしょ?
 それにシュアちゃんぶっちゃけ真面目に読書するような柄じゃないぜ?」

「それ、私には知性の欠片もないって遠回しに馬鹿にしてますよね?」

「まさか。確かにシュアちゃんは論理的な思考力もなければ
 思いついたら後先何も考えず即行動する単細胞だけど、俺はそういうところ好きだぜ?」

両手を広げておどける男に睨みの効いた眼差しを暫く向けるシュアだったが、次には「ハァ…」と深い溜息を吐くといったなんとも力無い行為に変わった。

「…やっぱり私って誰が見ても頭悪いんだ…。実はルッチにも言われたんですよね…。
 お前はもっと政府の人間らしく物事を考られるようになったらどうなんだとか、
 お前の突発的な行動が招いた失敗の尻拭いをするこっちの身にもなれとか、
 一日50回はバカヤロウと蔑まれるし、他にもガミガミガミガミ…」

「へぇ~(随分気に入られちゃってんじゃないの…)」

「だから私、ちゃんと教養を身に付けてルッチのこと見返してやろうと決めたんです!
 それで本を読み始めてはみたんですけど…」

段々と自信の色が失われていく言葉の末路、シュアの口から吐き出されたのは先刻と同じ弱々しい溜息。どうやら慣れない読書の効果を彼女自身実感することはなかったらしい。
肩を落とすシュアを不憫に思いながら何気なく彼女の手から奪った本に視線を向けた青キジの目に映ったのは『一日で頭が良くなる方法』という、なんとも陰気臭く短絡的なタイトルであった。

****

「ところで今日は何の御用で?」

「たまには海列車に乗って景色を眺めつつ、のんびり旅するのもいいだろうと思ってな。
 そうそう、観光がてら俺とデートしない?」

本を奪い返すことを諦め会話を繋いできたシュアに機嫌を良くした青キジは投げかけられた質問に答えながら彼女の肩に手を回すが、やはり先程と同じように叩かれてしまったため大人しく行き場を失った手を引っ込める。

「この列車、エニエスロビー行きだから観光には向いていませんけど?」

「あららら、それは残念」

「知ってた癖に…。
 もう一度尋ねますけど海軍大将さんがわざわざエニエスロビーに出向いて何の御用ですか?」

「こらこら、そんなあからさまに警戒しなさんな。
 俺ァ、ただパーティーに招待されただけなんだから」

「パーティ?」

「あれ、シュアちゃん知らねェの?
 今日は世界政府の交流パーティーがエニエスロビーで開催されるって。
 確か今回はCP9も参加できるって聞いているが」

「あー…」

そう言えば前に長官がそんな話を言っていたような気がする、とシュアは頭の片隅にある記憶を思い返した。

「だから、後で俺のファッションコーディネートしてくれよ?」

「は?何で?」

「パーティーの衣装は向こうでいろいろ用意してくれるみたいだからな」

「いや、そうじゃなくて何で私が貴方のコーディネートしなきゃいけないんですか」

「そりゃ、エスコートするお嬢さんの好みに合わせたいじゃない?」

「…言っときますけど私、パーティーには出席するつもりありませんよ」

「あららら、どうして?」

「人が大勢集まる所って苦手だし、それにお偉方ばっかり来るんでしょ?
 そういうお堅い雰囲気も嫌いだし」

「まァ、その気持ちも解らんでもないが…。
 俺も普段はパーティーなんてかったるくてあんまり参加しねェんだけど、
 今日はシュアちゃんがいると思って楽しみに来たのにガッカリだなぁ…」

「調子のいいこと言ってますけど本当は可愛いメイドさんたちに会いたくて来たんでしょ」

言い終わると同時に海列車が減速し始め、時機エニエスロビーに到着することを二人に告げる。徐に席を立った青キジはシュアが買い物にて購入したのであろう服や雑貨品が入った紙袋を手にすると扉へと向かってゆっくり歩き出し、そんな彼の後にシュアもまた続いた。
高く聳え立つ正門前に海列車が完全に停車したことを見計らい、正門前に待機していた海兵が列車の扉を開き下車用の足場を設ける。その後直ぐに敬礼の姿勢を取り、降りてくるであろうCP9の一員である彼女が出てくるのを待ったが、姿を現したのは自らが所属する世界機関の最高戦力と謳われる男であったため予想外の人物の登場に思わず困惑するも海兵の男は改めて一層力強く敬礼を送った。
そんな光景をぼんやりと視界に捉えつつシュアも列車から降りようと足を踏み出したその時、

「お手をどうぞ、お嬢さん」

荷物を持ってくれたり手を貸してくれたり、やけに紳士な海軍大将に少々違和感を感じるシュアだったが素直に好意を受け取ることにする。

「どうも」

そうして目の前に差し出された大きな手に自分の手を重ねた刹那、その手を急に強く引かれバランスを崩したシュアは青キジの白いスーツを纏う胸目掛けて倒れ掛かってしまった。重ねた手は握ったままに、青キジのスラリとしたもう片方の腕の中にシュアの体はスッポリと収められ、すぐさま身を放そうとしたシュアの行動はあっ気なく封じ込まれてしまった。

「ちょっと、セクハラ止めてって…」

「俺ってそんなに女にだらしなく見えるか?」

いきなり何を…とシュアは一瞬疑問を浮かべたが先刻の列車の中で交わした会話の続きであることを理解するのにそう時間はかからなかった。

「はい、とても」

「あららら、言うじゃないの。ま、確かに俺ァ、ボインのねーちゃんも好きだが、
 一番好きなのは…わかってんでしょうが?」

「わわわわ、わかりません!」

「じゃあ、はっきり言うが…」

「言わなくていい!」

「照れるシュアちゃんも可愛いねェ。ルッチが気に入るのも仕方ねェかもな。
 だが、あんまり他の男と仲良くしてるとオジサン、年甲斐もなく妬いちゃうぜ?
 それとも…」

わざと俺を煽って、めちゃくちゃにされたいの?
シュアの耳元で囁いた最後のセリフは赤面しつつも傍観していた海兵の耳には届かなかった。

****

「今日はたっぷりエスコートしなきゃな」
「だから私パーティーには出ませんて」
「"ベッドの中で"の話よ?」
「マジで訴えますよ」
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