忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【花京院】猫に青春 8

最初は触れるような、しかし2回、3回と重ねる度に深まる口づけ。
以前は拒んだというのに、今では煽るような甘い吐息まで漏らして素直に受け入れる朱亜に、正直驚きを隠せずにはいられないが、もう失いはしないとでも主張するように花京院は何度も何度も彼女を求めた。

やがて唇が離れ、名残惜しそうに銀糸の橋が互いの間を架ける頃には、一寸前まで悩んでいたことが嘘のように二人の胸はこの上ない幸せで満ち足りていた。
それでも、やはりシャイな娘にはまだまだ恥じらいの方が勝るようで、至近距離で交わった視線もそこそこに、頬を紅潮させた朱亜ははにかみながら瞳を伏せるのであった。

そうして何気なく視線を落とした先には愛猫のジジと、いつの間に腕から擦り抜けたのか、先程の白猫が中睦まじく寄り添う姿が。
ジジのガールフレンドだろうか。赤い首輪を着けているところを見れば、少なくとも野良猫ではなさそうだ。それも、凛とした気品溢れる品格に加え丁寧に手入れが施されたツヤのある美しい毛並みから、なかなかの良家育ちであると窺える。
試しに首輪に書かれた住所を確認してみると

「あれ、この番地…学校のすぐ側だ」

「もしかして、目の前に見えるあの家かもしれませんね」

そう花京院が示したのは中庭に隣接するお邸だ。白を基調とした外壁を身に纏う立派な佇まいを見上げた先には案の定、不自然に一つだけ開け放たれた窓が。どうやらこの白猫はあの窓辺から木に飛び移ったものの、降りられずにいたというわけらしい。

「ひょっとしたら、ジジに会いに来たのかも」

「ええ、僕もそう思います。
 ……恐怖を顧みず、愛する者と共にいたいという気持ちに素直に従えるなんて、
 なかなか簡単なことではないのに……」

言いながら白と黒の微笑ましいコントラストを映す彼の瞳はどこか物憂気な儚さを秘めていた。
美しくも放っておけば脆く崩れてしまうようでもあるその趣は、彼が初めて朱亜の前で見せた一面であり、ずっと知られまいと隠してきた不安そのものであった。
しかし、そんな彼の弱さも朱亜にとっては愛おしく、大きくもしなやかな手を取ると、安心させるように両手で優しく包み込むのであった。

「焦らなくても大丈夫だよ」

朱亜…さん…」

彼女の思い掛けない行動に目を瞬かせる花京院だったが、やがて伝わる温もりにふっと微笑んだ彼の瞳には、もう不安の色はなかった。

拍手[6回]

****

朱亜さん、本当は、一目見た時から僕は貴女のことが好きでした。
 貴女と共に過ごし、貴女のことを知る度にその気持ちは加速していく一方。
 もっと朱亜さんのことを知りたい、朱亜さんの全てが欲しい、
 そして、朱亜さんにも僕を受け入れて欲しいと強く願うようになりました。 
 しかし、そう思えば思うほど僕の中に芽生える恐怖が肥大していったんです」

「恐怖?」

「ええ、実は…僕には生まれつきスタンドという妙な力があるんです。
 感じたでしょう?木から墜ちている最中に見えない何かに支えられる不思議な感覚を。
 あれが僕の能力です。
 だけど、そんな力を秘めていることを知られてしまえば
 貴女に気味悪がられて嫌われてしまうかもしれない。
 そう考えると怖くて、なかなか本当の気持ちを曝け出すことができずにいたんです…」

「…………。」

「だけど、僕が臆病なばかりに貴女にツライ思いをさせてしまった……。
 本当に申し訳な…」

花京院が最後まで言葉を紡ぐことが叶わなかったのは、ふいに彼女の細い人差し指が唇の上に乗せられたからであった。

「花京院くんの力が私を助けてくれたんだね、ありがとう」

朱亜……僕のこと嫌いにならないのかい?」

「嫌いになるわけないじゃない……だって…」

こんなに好きなんだから、と頬に手を添え唇を寄せたのは、今度は彼女の方。

そんな重なった二つの影が陽だまりの中に落ちるのを見守っていたのは、黒と白の小さな後姿だけであった。

****

「と、僕たちは晴れて結ばれたというわけだ、お陰様でね」

放課後の教室に差し掛かるオレンジ色の輝きすらも、今の花京院にとっては祝福の光と思えるのだろう。要するに彼は浮かれていた。

本人曰く、君には相談に乗ってもらったんだから報告するのが礼儀だろう?と律義な言い分を立てているが、実際のところ惚気たいだけであろうことなど、その浮付いた顔を一目見れば、よもや承太郎でなくとも気付くはずだ。

「ああ、ちなみに朱亜の飼っていた黒猫のジジなんだけど、
 あの白猫を飼っている家が快く引き取ってくれてね、いやぁ、喜ばしいことなんだけど、
 朱亜ってばいざ引き渡すとなると寂しさのあまり泣いちゃってね。
 もうそこがまた可愛いくて…」

依然嬉々として語る花京院を余所にツラツラと問題集に筆を走らせていた承太郎だったが、黄昏時というのは成長期の男子にとって須らく空腹を誘うもの。ぐう~、といつかの如く遣る瀬無い声をあげた腹の虫に彼の手の動きが止まり、それと同時に惚気話も一旦お開きとなるのだった。

購買部にでも行こうか。しかし、そう思ったのも束の間、パタパタと廊下から響く聞き覚えのある足音に二人揃って教室のドアへと視線を送れば、予想に準じて現れたのは相変わらず溢れんばかりに菓子の詰められた紙袋を携える噂の彼女の姿であった。

「二人とも捗ってるー?」

朱亜、丁度腹減ってんだ。早く寄越せ」

「だからアンタはどうしてそう偉そうな態度しかとれないのよ!
 ったく…はい、皆から預かった分。それから…」

これは私からよ、と紙袋とは別に彼女が承太郎へと手渡したものは、ふっくらと焼きあがった、なんとも美味しそうなカップケーキであった。

「今回は失敗しなかったか」

そんなことを口にすれば忽ち睨みを利かせた彼女の目つきを真に受けることとなるのは必至であるが、

朱亜、僕の分はないのかい?」

その一声に彼女の態度はコロリと一転、にこにこと笑いかける花京院に向かい合うと、今し方の不穏なオーラは何処へやら、恋する乙女さながらポッと頬を染めながらはにかんで見せるのであった。

「あ、あのね…花京院くんにはこういうのを作ってみたんだけど、どうかなあ…」

そうして差し出したのは、ほんのりとピンクに色づいたスポンジにチェリーの果肉を散りばめたカップケーキ。極め付けに膨らんだスポンジの頂にはホイップクリームの台座の上に彼が愛して病まない赤く艶めいた球体の実が君臨している。
つまり、どういうことかというと、朱亜が愛しい人の為に贈ったそれは、見た目から味までこだわり通しており、他のものに比べてその差は歴然。流石の承太郎も自分の手にするものと花京院のものを交互に見比べ、唖然とする他ない。

「わぁ!すごく美味しそうだね朱亜。君は本当に器用だから将来良いお嫁さんになれるよ」

「やだ、お嫁さんだなんて花京院くん気が早いよ!」

なんて否定する朱亜も満更ではなさそうだが。
惚気話に次いで今度は仲睦まじい様を見せつけられれば、正直うっとうしいことこの上ないが、

「やれやれだぜ」

と、呟く承太郎の二人を見つめる眼差しは、心なしか安心したようでもあった。

****

『猫と青春』これにて完結です。
最後までお読みいただき有難う御座いました!
PR

プロフィール

HN:
新堂モラトリアム
性別:
女性
自己紹介:
当サイトは個人ファンサイトであり原作者様・出版社様・公式関係者様とは一切関係がありません。また著作権侵害を目的としたものではありません。公共PCからの閲覧、オンラインブックマーク、公式サイトとの同窓閲覧、中傷、荒らし、サイト内の文章や画像の無断転載や模倣等はご遠慮ください。閲覧は全て自己責任となりますので苦情は一切受け付けません。マナーを守って楽しめる方のみどうぞ。

NAME CHANGE

ブログ内検索

ご意見があればお気軽にどうぞ