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【花京院】猫に青春 7

例の一件から一週間以上が経過した今でも、教室で顔を合わせようが廊下で擦れ違おうが、やはり二人の間には会話はおろか、視線が交わることもなかった。
当然、青春の一端を飾るあの日課が途絶えたことも然り。太陽の下、見慣れたあの光景は白昼夢のように無いものとなった。

それでも、朱亜は今日も授業終了を知らせるベルの音が鳴り響くと同時に教室を後にする。向かう先は言わずもがな知れているだろう。
そもそも、これは彼女とその愛猫の間にある日課なのであって、いつしか彼との日課と化していたそれが元ある名目を取り戻したに過ぎないのだ。
しかし、朱亜の胸にはぽっかりと穴があいたようであった。
耳に馴染む優しい声、安心感を与えてくれる温かな笑顔、そんな当たり前となっていた彼の存在がなくなった今、共に過ごしたあの頃がひどく昔のことのように懐かしく思える。
そして、そんな面影を彼が訪れることのなくなったこの見慣れた景色に照らし合わせ、人知れず恋しさに打ちひしがれるのであった。

拒んだのは自分だというのに、今更こんなことを思うなんて。彼が知ったら呆れて哂うだろうか。いや、もう相手にされないかもしれない。あんな酷い拒み方をしたのだ、嫌われても仕方ないだろう。
そんなことばかりが頭の中を縷々するが、それでも、もしかしたら…と拙い希望に縋り、彼がこの場所にやって来るのを心のどこかで待ってしまう朱亜は、そんな自分の浅ましさにほとほと嫌気が差すのであった。

拍手[3回]

そして今日もまた、彼女は校舎の角を曲がり足を踏み入れた先で、やはり追い求める姿の存在しえない殺風景な景色を一望すると、小さく溜息を零す。
しかし、いつもと何ら変わらない風景の中に唯一、変容を伴うものが。

「ジジ?何してるの?」

いつもならば直ぐに朱亜の元へと歩み寄る愛猫の様子が今日に限ってはそうでなく、何やら中庭に聳え立つ一本の木の前でジッと動かずに上を見据えているのであった。時折「ニャー」と、鳴く彼は何かに呼びかけているようでもある。

「……?」

不思議に思った朱亜もまた、その木に近付き、彼に倣って上方を見上げると

「え…!?」

思わず声を挙げてしまう程に驚く朱亜の目に映ったのは、なんと、ジジとは対照的な毛色を持つ白猫。しかし、その姿は枝の上で動けずに震えている。

「うそ、降りられなくなっちゃったの!?」

白猫の位置は手を伸ばしても到底届きそうにない位置であるのは一目瞭然。もしも、この高さからその愛らしい小さな体が墜っこちようものなら、重症は免れないだろう。

「よ、よし…、今助けてあげるから…」

木登りの経験など勿論無いに等しいが、そんなことを言っている場合ではない。朱亜は意を決すると、一番手頃な枝に足を掛け、白猫の救出を試みるのであった。

****

どれ程経過しただろう。
慎重に上を目指し続けた朱亜は漸く白猫のいる場所へと接近しつつあった。だが、あと数十センチというところで細枝に阻まれて近付けずにいる。例え細枝へ移ったとしても自分の体重を支えきれるかが危うい。この高さ、猫はおろか人間も堕ちれば無傷で済むとはいかないであろう。
しかし、

「こうなったら一か八か、やるしかないわね…」

多少危険を伴うが恐る恐る枝から枝へと移る。足場は頼りなく揺れるものの、どうにか持ち堪えられそうだ。

「あと少し…」

怯える白猫へと懸命に手を伸ばし、そして…

「やった…!」

なんとか小さな体を捕えることに成功し、抱きかかえたその時、ミシミシ…と不吉な音を立て始めた枝は

「げ!?」

待ったなしにバキッと豪快な悲鳴を上げて折れてしまったのであった。

「こ、こんなことならもっとダイエットしておけばよかった~!」

などと嘆いても所詮は後の祭りである。
せめてこの子だけは守らなきゃ…!と、白猫をギュッと抱き竦めた朱亜は、やがて地面に叩きつけられるだろう衝撃に目を瞑ったが

「ハイエロファントグリーン!」

「!?」

瞬間、重力に従って真っ逆様に堕ちていた朱亜の体が宙に浮いた。いや、何者かに支えられたと言った方が正しいのかもしれない。
一体自分の身に何が起こったのか、把握しようのない朱亜だったが、閉ざされた視界の中で確かに感じるのは、ゆっくりと下降する身体を今度は誰かに抱きとめられるようなハッキリとした感覚。そして

「まったく、貴女という人は本当に危なっかしくて放っておけませんね」

傍らで諭すように囁かれた聞き馴染みのある声。墜ちゆく最中、暗闇の中で響いたあの声は

「(やっぱり空耳なんかじゃなかったの…?でも、そんな…まさか)」

疑心と期待が交差する。
しかし、逸る気持ちを制し、徐に瞼を持ち上げた彼女の願いは、揺るぎない事実として確かに其処に在った。

「…なんで…」

「窓から木に登っている貴女を見かけて心配で…つい来てしまいました」

そうして困ったように微笑む目の前の彼は、間違いなく朱亜がずっと待ち焦がれていた人物だ。
喜べばいいのか驚けばいいのか分からなくなるほどに頭の中で混乱が犇めき合うが、花京院の腕から解放されるや否や朱亜の瞳から止めどなく溢れたのは、紛れもない安堵の涙であった。
だが、そんな彼女を前に花京院はまたもや泣かせてしまったと罪悪感にうろたえるしかない。

「あ…!す、すいません!思わせ振りなことをするつもりは毛頭なかったのですが
 その、放っておけなかったと言うか、居ても立ってもいられなくて…!
 でもやっぱり、僕に助けられても朱亜さんにとっては迷惑ですよね……」

「…ちがう…」

「で、では、もしかして何所か枝で切って怪我でも…!?」

それでも首を横に振る朱亜。最早、彼女の泣いている理由を知る術を持たない花京院はどうしようかと途方に暮れるが、ふいに胸に寄りかかる嬉しい重みに彼の思考は停止するのであった。

「あ、あの…朱亜さん?」

「よかった…」

「え?」

「私…嫌われてないんだよね…?」

朱亜……。ええ、貴女を嫌いになるわけないじゃないですか。
 こんなに…好きなんですから…」

そうして濡れた頬に触れ、愛しい唇に口付を落とせば、彼女の冷たい頬にほんのりと熱が灯された。
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