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【花京院】猫に青春 5

何かしなければ。でないと、彼のことばかり考えてしまう。

そんな朱亜にとって、部活動は丁度よい気晴らしであった。と言っても、今日はもともと活動日ではないため、調理室にある姿は彼女ただ一人である。しかし、一見寂しくもある静けさは集中力を高めるには丁度良く、作業も捗るというもの。
そうして完成したフルーツタルトはなかなかの出来だ。宝石箱のように敷き詰められたベリーやキウイといったフルーツがなんとも食欲をそそる。そして、その中にあるチェリーもまた、例外ではない。

いつの日か、チェリーが好物だと語っていた誰かがふと脳裏に過ったが、朱亜は振り払うように頭を軽く振ると、気を取り直して後片付けに取り掛かった。しかし、そんな行動も直ぐにコンコン、と前触れもなく響いた扉のノック音によって中断させられるのであった。

拍手[1回]


瞬間、朱亜はそのノックの音よりも大きく自身の心臓がドキリと厭な音をたてたように聞こえた。何故なら、開放しっぱなしであったドアの前には、つい先ほど脳裏に浮かべた人物の佇む姿があったからだ。
更には、その一瞬の動揺につけて朱亜は仕舞おうと持っていた皿をうっかり手から滑らせてしまうのであった。無論、皿は無機質な悲鳴を響かせ無残にも床に散ってしまったのは言うまでもない。

「あちゃー…」

止むを得ず散らばった破片を拾う為、朱亜は蹲うが、ふと向かいに落とされた影に顔を上げると、花京院もまた、片膝を付き破片へと手を伸ばすのであった。

「手伝いますよ。貴女一人では危なっかしくて放っておけません」

「む、それはどういう意味よ」と問い詰めたくなったが、親切を受ける手前、朱亜は無愛想にも「ありがとう」と一応の礼を述べるに留めた。
しかし、代わりに胸に浮上した一つの疑問を口にする。

「そもそも、花京院くん何でこんな所にいるの?」

「それは、朱亜さんに会いに来たに決まっているじゃないですか」

「……私に何か用?」

「ええ。昼休みの時の朱亜さん、どこかいつもと雰囲気が違ったので様子を窺いに来たのです。
 何かあったのですか?」

「(そんなの……)」

言えるわけがない。
彼の気持ちを知った以上、本当のことを口にしても状況が変わるわけでもなし。それならこのまま何も打ち明けず、友達のままでいいじゃないか。
そう、彼は単に気の合うクラスメイト。それ以上でもそれ以下でもない。

「なんでも…ないから……」

複雑な思いに胸を押し潰されながらなんとか絞り出した声は情けなくも震えていた。しかし、それでも目の前の彼は動じず、食い下がるのを止めはしない。

「何でもないなら、どうしてさっきから僕の目を見ないのですか。
 どうして突き放す様な態度を取るのですか」

「それは…」

「もし…僕のことが嫌いになったのならはっきりそう言ってください」

「ち、違うよ…!…っ」

彼の言葉に咄嗟の否定をしたその時、朱亜は人差し指にチクリとした痛みを覚え、思わず顔を顰める。どうやら破片で切ってしまったらしく、見ると切れ口からは血が滲み出ていた。

「見せてください。細かい破片が刺さっているかもしれない」

言われるがままに手を取られ、誘われた傷口をボンヤリと目で追っていた朱亜だったが、

「(う…)」

途端、指先に感じる彼の唇の熱に不覚にも胸を高鳴らせてしまうのだった。

「か、花京院くん…!」

「よかった、破片は刺さっていないようだ」

傷口から唇を離し、吸い出した血の中に異物がないことを確認した彼は「安心してください」と続けたが、正直こっちはそんな心境ではない。

異常なまでに轟く脈がバレてしまう前に何とかしなければ。
そう慌てて手を引っ込めようとした矢先、意思とは裏腹に掴まれた手を引かれ、そして、あの日と同じように彼の耳飾りを視界の端に捉えた時には、もう唇は柔らかい熱に塞がれてしまっていた。

「ん、ぅ…!」

前に交わしたものとは全く違う、角度を変えて何度も繰り返される激しい口付けに朱亜の思考はあっという間に蝕まれつつあった。
しかし、甘美な感覚に酔いしれる一方で胸には言い知れぬ寂しさが募るばかり。
そして、

「もう止めて…!これ以上思わせ振りなことして私の気持ち掻き乱さないでよ…!」

遣り切れない思いに堪らず、懸命に彼から身を剥がしたその時、とうとう朱亜の瞳からは一筋の雫が零れ落ちるのであった。
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