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【花京院】猫に青春 3

「ちょっと朱亜、砂糖の量多すぎよ?そんなに入れたらくどくなっちゃうじゃない」

「え?」

友人の声にハッと我に返った拍子、朱亜の手から砂糖の袋がすり抜け、中身の入ったそれは床へと真っ逆様に着地した。

「あちゃー…」

「あーあ、ボーっとしてるから。まったく世話の焼ける…」

悪態づきながらも床に散らばった残骸の始末を手伝ってくれる人物は朱亜の良きクラスメイトであり、はたまた部活仲間であり、そして親友であった。
その親友が「何かあったの?」と心配を口にするのも無理はない。なぜなら、朱亜は昼休みが終わって以来ずっとこんな調子であり、それは放課後の部活動が始まった今も変わらなかったからである。
それでも「なんでもない!」と何やら顔を赤らめてブンブン首を振るといったオーバーリアクションを見せる本人にこれ以上立ち入ったことを聞くのは野暮かと判断したものの、その後も彼女は何処か上の空といった風に失敗を繰り返す始末なのだから世話がない。

そうしてなんとか出来上がったマカロンはお世辞にも美味しそうとは言えない代物と化して存在を示したのであった。

「ハァ……」

「まあまあ、そんなに気を落とさないで!誰だって失敗は経験するものなんだから。
 はい、これ私が作った分」

「も、貰ってもいいの!?」

励ましの言葉と共に差し出されたマカロンに朱亜は心の底から友情の素晴らしさを実感したが、しかしそんな感動も次の科白であっさりと断ち切られてしまうのであった。

「承太郎先輩に渡してね!」

「へ…」

波野さん、私の分もお願い!」

「私も!」

親友を皮切りに他の部員たちからも次々と菓子を預けられる朱亜。あっという間に抱える両手いっぱいとなった個包装のマカロンを前に「幼馴染のポジションも楽ではないな…」と彼女はしみじみ思うのであった。

拍手[3回]

****

これまでの人生、"学生は学生らしく"をモットーに、至って堅実に学業へと専念してきたつもりであったが、そんな自分が過酷な旅からの帰還後、毎日放課後を個別補習に捧げる羽目になるとは思いもしなかった。
まったく、この人と居ると新しいことだらけだな、と花京院は隣で問題集に向き合う承太郎を一瞥してつくづく感じていた。

彼も花京院と同じく個別補習の犠牲者だ。と言っても、学年が異なるため補習内容まで同じとはならないが。
たった二人の、況してや勉強内容もまるで違う生徒のために時間を費やさなければいけない教師も御苦労なものである。もっとも、問題集を手渡すや「終わったら職員室へ来い」とだけ言い残して早々と教室を後にした彼は今頃自分のデスクで茶を啜っているのかもしれないが。

「花京院、もう終わったのか」

視線に気付いたのか鉛筆を走らせる手をそのままにふと口を利いた承太郎に、花京院はつらつらと巡らせていた思考を断ち切ると体を隣の彼へと向けた。

「ええ、前の学校で習った範囲だったからね、わりと簡単に解けたよ」

「そうか、俺もあと少しで終わる。それより…お前、まだ新しい制服届かないのか?」

もう転校から二月以上経つぞ、と置かれた付言に、花京院は視線を落として自分の格好を改めてみるも、

「実はもう新しい制服は届いているんだが…こっちの方が僕らしいだろう?」

あっけらかんと肩を竦めるのであった。

それは校則違反だろう…というのが承太郎の率直な意見であったが、自分が言えた口ではないのだから「やれやれだぜ…」と笑うしかない。ともあれ、人目を奪う服装は馴染まないにしろ、彼自身は新しい学校に慣れ始めてきているようなので良しとしよう。
と言うのは、旅から帰還した後はまるで夢から現実に引き戻されたかのようで、最初こそ退屈染みた学校生活にうんざりといった様子だったものの、最近の彼はどこか生き生きとしていて愉しそうだからだ。何がそうさせたのかは、承太郎の知ったことではないが。

そうこうしている内に、やがて承太郎も最後の問題へと差し掛かったのだが、丁度その時、彼の腹の虫の音が静かな教室によく聞こえるのであった。

「購買部に行ってパンでも買おうか?」

そう提案する花京院に「そうだな…」と一度は賛同しかける承太郎であったが、何やら教室の外からパタパタと小走りに駆ける音を耳に捉えると「いや、その必要はないみたいだぜ…」と廊下の方へ視線を向けた。
するとタイミングよくスライド式のドアが開かれたかと思いきや、其処に現れたのは花京院もよく知る人物なのであった。

「ジョジョー、まだ居る?」

朱亜さん?」

「あ…花京院くん!」

なぜこんなところに?と互いに疑問を持たずにはいられないが、ただ一人、承太郎だけはそうではなく、何食わぬ顔で席を立つと朱亜の元へと歩み寄り、彼女の手に持つ紙袋に注目した。

「今日は何だ?」

「あ、えっと…マカロン」

「夕飯までの腹の足しには、まぁ悪くねぇか」

「あんた毎度恵んでもらってる立場なのに本当いつも偉そうね」

「向こうが勝手に寄越してくるんだろうが」

成程、承太郎は家庭部で作った菓子を彼女を通じて貰っているらしい。これで先刻、彼が購買部に行く必要がないと言った理由に合点がいった花京院であったが、今はそんなことよりも彼女が校内切っての不良と互角に渡り合っている事の方が気になって仕方ない。あろうことか、その様は砕けていると言うべきか、実に自然体であり、それは自分に向けられることのない彼女の一面であったのだから花京院は何とも表し難い気持ちを覚えた。
 
一方、紙袋を受け取った承太郎は腹を空かしている所以あって、山ほどあるマカロンの内一つに早速手をつけるかと思いきや、予想とは裏腹に彼は紙袋を机に置くと何やら朱亜に向かって手を差し出した。

「何?」

「お前の作った分はないのか?」

「え、あー…」

承太郎のその一言で途端、バツが悪そうに目を逸らす朱亜は、この時、絶対に花京院の方を見てはいけない、と自分の胸に警告した。
言うも更なり、彼女の幼馴染は人一倍鋭いのだ。今、花京院に視線を送ってしまえば、この幼馴染に極めて自分にとって触れて欲しくない事実を悟られてしまうのではないだろうかと危惧したわけで、朱亜は兎に角自分の警告に逆らわないよう徹するのであった。

「えっとー…その…私が作ったのは失敗作というか……ほ、本当だよ!」
 

ほらっ、見た目もすごく変でしょ!と言って鞄から取り出されたそれは確かに歪な形をしており、お世辞にも美味しそうとは言えない。しかし、それを繁々と見つめる承太郎の目はまるで疑いの眼差しだ。朱亜は何だか尋問を強いられている罪人のような気分に陥った。

「お前が料理において失敗なんて珍しいな」

「え!?ま…まあ、いろいろあったというか…」

「いろいろ?」

「か、考え事してたのよ」

「…ほー、考え事ねぇ…」

「まあまあ、承太郎。
 女性に秘密は付き物なんだから、それを問い詰めるのは野暮というものだよ」

「…………。」

まだ納得がいかないといった風の承太郎であったが、花京院の助け舟の甲斐あって、朱亜は漸く承太郎の追求から解放されるのであった。
大人しく席へと戻る承太郎の目を盗んで「ありがとう」と目配せを送るとそれにパチッと片目を閉じて応える花京院に、そもそもの原因は彼にあるということを思い出した朱亜は、礼を言うのも何か違うような…と後になって考えさせられた。

何は然れ、預かったプレゼントを幼馴染に届けるという使命を果たした朱亜は早々に教室を立ち去ろうとしたが、さよならまた明日の挨拶は直ぐに喉の奥へと飲み込まれるのであった。

朱亜、晩飯の買い物に行くのか?」

「うん?そうだけど」

「付き合ってやるから、ちょいと待ってな」

「いいの?」

母が亡くなって以来、父子家庭で大変な朱亜を物心つく前から度々見てきた承太郎は昔から何かと彼女の面倒をよく見てくれるのだ。それは、思春期を境に少々気が荒っぽくなった今でも変わらぬ彼の優しさであり、朱亜はそれが素直に心嬉しいと感じるのであった。

そうして、ものの数分もしない内に最後の解答欄を埋めた承太郎は花京院の分共々問題集片手に席を立つと「先公に提出してくるぜ」と教室の外へと向かったが、去り際、朱亜の手にしていた歪なりのマカロンを颯爽と取り上げることを忘れなかった彼は

「これでも食いながらな」

と、ニヤリと口角を上げ、制服の裾を翻しながら教室を後にしたのだった。

****

さすれば、夕陽が差し掛かる教室に残るのは花京院と朱亜の二人となるのが必然である。
しかし、どうしたものか、朱亜にとってその状況は

「(き、気まずい…)」

その一言に尽きた。
それもその筈、彼女は昼休みの一件以来、花京院と会話どころか目も合わさずにきたのだから(ただし先程のアイコンタクトは例外だ)ふいに訪れた思いも寄らぬこの二人きりのシチュエーションに、どう振る舞えばよいのか困り果てるしかないのだ。
その上、椅子に腰かける彼もまた同様に黙っているものの、その思うところは分かったものではないが、身に纏う雰囲気はどこかいつものたおやかなものとは少し違うようであり、朱亜の内心はうろたえるばかり。

しかし、長い沈黙が続いた末、最初に口を切ったのは花京院の方であった。

「立ってないで椅子に掛けたらどうですか?」

ここ、空いてますよ、と隣の席の椅子を引く花京院に「あなたの座っているところ以外全部空いてるけどね」と、友人相手ならば軽口の一つでも叩いたであろうことも如何せん、彼が相手となるとそうもいかず、朱亜は言われるがままぎこちなく勧められた椅子に腰を落ち着かせた。

「僕も朱亜さんの作ったお菓子、欲しかったな」

「あ、あんな失敗作、花京院くんに食べさせられないよ…」

「承太郎にはあげたのに?」

「あれは、」

あげたと言うより取られたと言った方が正解だろう。
しかし、反論できなかったのは花京院の様子がやはりいつもと違うことに不安を感じたからだ。

「(どうしよう…何か誤解されてるような…)」

いや、考えてみれば当然か。何せ、接吻を交わしてからというもの、まるで彼を避けるような態度を取って、おまけに幼馴染とは言え、目の前で他の男と仲良くする光景を見せつけてしまったのだから。とは言っても自分はただ尋問を食らっただけであって仲良くした憶えはないが。

なんとか彼の誤解を解きたいが、しかし、何をどう説明すればいいのやら。そうして逡巡する最中、

「すいません」

と何故か急に詫言を述べた花京院に朱亜は馬鹿みたいに口をポカンと開けるしかなかった。

朱亜さんの気を確かめもせず、あんな不意を突くようなことを…。
 あなたには特別な人がいるというのに…」

特別な人…というのはもしかしなくとも承太郎のことだろう。やはり誤解されている、と朱亜の懸念が確信に変わった瞬間であった。

「い、いや…ジョジョとはただの幼馴染というか…。
 確かに他の男の子たちよりも仲はいいけれど、そこに男女の慕情はないというか…。
 も、もし、ジョジョにキスされたら全力でぶん殴るだろうけど、
 花京院くんは…その…嫌じゃなかった……です」

ああ、何を言っているんだ自分は…!と、まさに穴があったら入りたい衝動に駆られたが、身を隠す穴など都合良く存在する筈もなく、朱亜はしきりに机の木目を数えて恥ずかしさを紛らわせるのが精々であった。しかし、

朱亜

ふいに名前を呼ばれて、反射的に顔を上げると此方を射抜く瞳と目が合い、今までずっと見ないようにしてきたというのに不思議にも今度は反対にその瞳から目を離せなくなってしまうのであった。

「マカロンの代わりに…」

視界の端で彼の耳飾りが揺れた。
そしてきっと次に来るであろう甘い感覚に咄嗟に目を瞑ったが、

ガラッ

「!?」

突如開かれたドアの音に朱亜は思わず体を小さく跳ね上がらせるのであった。

「ジ、ジョジョ!意外と早かったのね!」

「ああ…先公が居なかったんでな、そのままデスクに置いてきた。
 それよりお前、顔が赤いが熱でもあるんじゃねぇか?」

「え!?そ、そんなこと、」

朱亜さん」

「は、はい!」

「マカロンの代わりに、今度僕にとっておきのお菓子を作ってくれるかい?」

いつの間にか席を立ち笑顔でそう言う彼は、いつものたおやかな彼であった。

****

花「こんな可愛らしい幼馴染がいるなんて僕は初耳だよ、承太郎?」
承「当然だ。なんでわざわざ言う必要がある」
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