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【ルッチ】6月2日

「失礼しまーす」

無機質な音を立てる扉を開き長官室に足を踏み入れれば、いつもの席に座り何やら資料を読み耽っている長官が出迎えた。

「何か用かー?」

「任務の報告書持ってきましたよ」

長官の前まで歩み寄り、数枚に及ぶ報告書を机の上に提示するも彼は相変わらずその手に持つ資料から一向に目を離さない。よっぽど面白いことでも書いてあるのかな?
好奇心を掻き立てられ、私は身を乗り出して長官の手中にある資料を覗き込んでみた。

拍手[3回]


「いつも私たちが書いた報告書にすらロクに目を通さない長官が
 真面目に資料を読むなんて珍しいですね!何見てるんですか?」

「この司法の塔にいる奴らの個人プロフィール表だ。ていうか今の嫌味?嫌味だよね?」

「へぇ~興味あるかも!ねぇねぇ見せて!」

「無視かよっ!ていうか急にタメ口とか長官の立場!
 俺は今からこれを整理しないといけねェんだよ!ほら邪魔だ。
 用が済んだならとっとと戻れ!」

しっしっと手で追い払う動作をする長官。ちぇ、つまんないの。これから裏で長官のこと「ツマンナム」てあだ名で呼んでやる。
不満を抱きつつも潔く部屋から去ろうと踵を返すが今度は「ちょっと待て」と呼び止める声が。人のこと邪魔者扱いしたり引き止めたり、まったく面倒な人だ。鬱陶しく思いながらも再度ツマンナムに向き直ってやる。

「何ですか?」

「さっきルッチのプロフィール表を見て知ったんだけどよー、あいつ今日誕生日らしいぞ」

「………ふーん。」

「リアクション薄っ!お前、普段世話になっているんだったら
 プレゼントぐらい用意しようとか思わねェのかよ?」

「世話ねぇ…」

長官の言葉にふと過去の出来事を遡ってみるが、正直のところルッチの世話になった記憶など皆無であった。寧ろ彼との思い出として頭に浮かぶのは、自分のおやつを我が物顔で平然と食べられたり、ことあればすぐ犯されそうになったり、任務遂行時、1のミスで100の文句を浴びせられたり等、どれもこれも忌々しい出来事ばかりであった。

「うん、改めて考えてみても奴にプレゼントをあげる義理はない。
 ていうか思い出したら腹立ってきた」

「一体お前らの間に何があったんだ…。ま、プレゼントをやるかどうかはお前次第だけどよ、
 ルッチはシュアから祝ってもらったら喜ぶと思うけどなー」

「まさか。プレゼントを期待するような柄でもないでしょうに」

否定をしてみるも長官のニヤニヤとした気に障る笑みが消えることはなかった。絶対面白がってるだろ。なんだか冷やかされているようでいい気がしない。

「ていうか、そんなこと伝えるためにわざわざ呼び止めるなんて、
 さっき忙しいって言っていたけど長官、本当は暇なんじゃないですか?」

「なっ…!?って、ぶあっちぃい!あちっ熱っ!!コーヒー溢した!!」

私の発言に抗議しようとしたのか目の前の上司は勢いよく立ち上がるが、その反動により机の上のコーヒーを思いきりぶちまけるというお決まりの芸を披露してくれた。ふん、ざまあみやがれ。
これ以上関わるのも面倒だと判断した私は長官がコーヒーの始末に追われているのをいいことに黙ってその場を去ったのであった。

あーあ、あの馬鹿長官のせいで余計な時間食っちゃった。何がルッチの誕生日だ。人の子から生まれたのかどうかも疑わしい極悪非道野郎のことなんて誰が祝うかっての。
長官室を後にした私は心の内でそんな悪態を吐きながら自室へと向かっていた筈だったのだけれど…

「何をやっているんだ私は…!」

と、今では給仕室にてケーキの材料を前に膝を附いてどんよりと自己嫌悪に浸っていた。

「べ、別にルッチを喜ばせようと思ってケーキを作るわけじゃないもん!
 そう、これは貸しを作って私の誕生日の時に
 奴からプレゼントを催促するための魂胆の下に行う作業だもん!」

そう自分自身に言い聞かせ、気恥ずかしさを抱きつつも私は渋々ケーキ作りを開始した。

「えーっと…ルッチは甘すぎるのはあんまり好みじゃないかな?
 もう三十路手前のオッサンだし(←こら)だから砂糖を少なめにして…」

しかし砂糖の分量を量っていたところでハッと我に返る。

「何で憎きルッチの好みなんか律儀に考えているんだ私はぁああ!!
 そうだ、いいこと考えた。アイツには激辛ケーキをお見舞いしてやる!」

即座に山葵を手に取りフッフッフと不気味な笑みを浮かべケーキの生地に混ぜようとしたその時

「何を一人で騒いでいる?」

「あ、ブルーノ」

突如給仕室に顔を出した彼の登場により作業の手が一旦止まる。

「ルッチが今日誕生日らしいからケーキ作ってるの。そうだ、ブルーノも一緒に手伝ってよ!
 料理が得意ならお菓子作りも得意でしょ?」

「別に構わんが…どう考えてもケーキに山葵は合わないと思うぞ」

「あ、これは日頃の恨みを込めようと…」

「普通に作ってやれ」

というわけでブルーノも共にケーキ作りに参加することとなったのであった。

****

「わおっ、流石ブルーノ!綺麗に焼きあがったね!」

オーブンから取り出した生地の出来栄えに私は歓喜の声を上げる。
するとブルーノと同じくまたもや給仕室に顔を出す人物が。

「チャパパー!いい匂いがするぞー!」

「よよい!あ、な~に~か~作って~いるのか~?」

現れたのは独特の喋り方をする二人組、フクロウとクマドリだ。

「クマドリ、いいところに!
 今ルッチの誕生日ケーキを作ってるんだけど、生クリーム混ぜるの大変だから手伝ってよ!
 生命帰還を使えば楽勝でしょ?」

「お安い~あ、御用だ~」

クマドリは髪の毛を器用に泡だて器に絡ませると早速ボウルに入っている生クリームをかき混ぜ始めた。それを見ていたフクロウは少し不貞腐れた様子を示す。

「チャパパー、俺は手伝わなくていいのか?」

「いや、お前も手伝え。
 このまま帰せばお前はケーキ作りのことをルッチの前でも平気で言いふらすだろう。
 そうすれば折角のサプライズが台無しだ」

「ブルーノに激しく同感!というわけで、フルーツ切るのよろしく」

こうして新たにクマドリとフクロウがケーキ作りに加わった。

****

ふっくらと弾力のあるスポンジ、ツンと角の立った生クリーム、色鮮やかでツヤのあるフルーツが揃い、いよいよデコレーションの作業に取り掛かろうとした時であった。

「ぎゃははは!お前ら何柄にもねェことしてんだよ」

「あら、なかなか楽しそうじゃない?私たちもまぜてほしいわ」

「そうか、今日はルッチの誕生日じゃったのう」

ジャブラを先頭にカリファ、カクの3人が現れ、いよいよ主役を抜いたメンバーが全員揃い賑やかになってきた。

「お、美味じゃ!」

「こら、食べるな!」

つまみ食いするカクに詰め寄るけれど再度クリームを掬い取った彼の指が「ん、」と私の前に差し出されたため思わずパクつくと甘美な味が口内いっぱいに広がる。

「おいしーv」

シュア、もっとこう舌を絡ませて隅々まで舐めとるんじゃ」

「カク、セクハラよ」

「お前らだけ卑怯だ狼牙。俺にも寄越せ」

「私ももっと欲しいー!」

「おい、そんなに食べるとケーキに使う分が足りなくなるぞ」

しかしブルーノの制止の声も聞き入れず和気あいあいと生クリームを食し続けた結果…

『………………。』

きれいさっぱり空になったボウルを前に黙り込む一同。

「だから言っただろう」

う…。グサリとブルーノの言葉が槍の如く私に突き刺さる。

「ま、また買いに行けばいいだけだもん!
 そうだ、ジャブラが一番多く食べたんだからジャブラがお使いしてきてよ」

「なにぃ!?元はと言えばカクが食べ始めたんだ狼牙!」

「わしに全責任を押し付けるんじゃないわい!
 フクロウたちだってちゃっかり食べておったじゃろう」

「チャパパー、カリファもクマドリも食べたからみんな同罪だ。
 因みにジャブラは生クリームだけじゃ飽き足らず
 フルーツや生地にも手を付けていたチャパパー!」

『えぇっ!?!?』

見てみればカットされた山盛りのフルーツは一目見て分かるほど量が減っているし、生地は明らかに食べられた形跡があり不格好な形となって存在を示している。

「馬鹿、フクロウ!言うんじゃねェよ!!」

「馬鹿はお前じゃ、ジャブラ」

「よよい!ここはオイラが腹切って~責任を~…」

「やれやれ…どうするんだシュア?」

「はぁ…1から作り直すしかないな…」

「皆で力を合わせればあっという間に出来上がるわ」

落胆する私の肩を軽く叩き元気づけてくれるカリファの優しいこと。とりあえず新しい材料のお金は全てジャブラから徴収することにしよう。

****

ハプニングがあったものの皆で力を合わせること数時間。

「生クリームのコーティングも終わったし、後は上にイチゴと飾りを乗せるだけね!」

ルッチ喜ぶかな?完成間近となったケーキを前に私は頭の中で彼の驚く顔を思い浮かべ、ふふっ、と笑みを零す。なんだかんだルッチの為に頑張っている自分に少し驚いているけれど、たまにはこういうのも悪くはないと思えた。その時

「おい、全員集まって一体何をしている?」

突如投げかけられた質問。その聞き覚えのある声にまさかと思い振り返ってみれば、そのまさか。ポケットに手を突っ込み扉の前に佇んでいるのは今し方、私が頭に思い浮かべていた人物。

「げっ、ルッチ!なななな何でこんな所に!?」

すぐさまルッチの元へと駆け寄るが流石勘のいい男、皆の様子がおかしいことに気付いたのか怪奇そうに眉間に皺を刻む。

「げっ、とは失礼な奴だな。
 俺はハットリの餌が無くなったから何か餌になるものを取りに来ただけだ。
 それより…何か作っているのか?」

「え!?つ、作ってないよ、ケーキなんて作ってないよ!」

「ケーキを作っているのか?」

しまった!動揺したらすぐにボロが出る癖どうにかしようと昨日寝る前に決心したばっかりなのに!

「あー、えっとハットリの餌なら私の部屋にパンがあるからそれあげる!」

「…そうか、助かる」

よし、なんとか誤魔化すことができたわ。というわけで皆、後はよろしく!
私は手前にいたカクに目配せを送るとこの場から早くルッチを退散させるため、彼の背中をグイグイと押しながら調理室を後にした。

「のう…カリファ、今シュアがわしにウインクをしてきたんじゃが、
 やはりシュアはわしのことが好k…」

「後は頼んだって意味よ(きっぱり)」

「(´・ω・`) 」

****

「はい」

自室に入るなり、私はテーブルの上にあるバケットからパンを取り出しルッチに手渡した。ルッチは受け取ったそれを早速小さく千切りハットリに食べさせる。

「こんな粗末なものしかなくてすまない、ハットリ」

「悪かったわね朝食の残りもので!」

貰っておいて文句を言うな、文句を。確かにルッチって普段ハットリに良いもの食わしてそうだけど!

「まあ、そうツンケンするな」

ルッチは千切り終えたパンを全て床にばら撒くとそれを啄ばむハットリはそのままにベッドの端に座る私の隣に彼もまた腰掛けた。おい、後で床掃除しろよな。そしてやたら距離が近いのが気に食わないのですが。

シュア、今日は何の日か知っているか?」

「………さあ?」

一瞬ドキリと心臓が跳び跳ねたがあくまで冷静を装って知らぬフリをする。すぐにボロが出る私にしては大した演技だったと思う是非褒めて欲しい。
しかし私のその発言によりルッチは顰蹙したと同時に盛大な溜息を吐いた。

「俺の誕生日だバカヤロウ。
 いつも世話して貰っている身なのだからプレゼントぐらい用意したらどうだ?」

「日ごろ私に散々あくどい真似してるにもかかわらずプレゼントまで催促するなんて
 悪魔から生まれてきたのかあんたは」

「さあな…。
 俺は孤児だから親が誰なのか知らないし考えたこともないが、
 もしかしたら本当に悪魔から生まれてきたのかもな」

「…………。」

ルッチは不敵な笑みを浮かべながら何の気なしにそう言っているけれど、私はなんだか言ってはいけないことを口にしてしまったような気がしてつい黙り込んでしまった。
そうして沈黙が2人を包み込んだその時

『ハッピーバースデイ ディア ルッチ!!』

突如勢いよく部屋の扉が開かれ姿を現したのはCP9一同とワゴンに乗った大きなケーキ。
いきなりの突撃に私ですら面食らったのにルッチは特に驚いた様子もなく、彼らを一瞥すると徐にベッドの端から立ち上がりケーキへと近づいた。

「驚いたかルッチ?チャパパー!」

「見事じゃろ!?みんなで作ったんじゃぞ!」

「ふん、このバカ(シュア)の不自然すぎる態度で薄々気付いてはいた」

う…。グサリとまたしても言葉の槍が私に突き刺さる。ていうか気付いていたとか言う割には私にプレゼント催促してたじゃねーか。でもまあ、素直にありがとうと言わない所がルッチらしい。それでも彼が喜んでいるのはみんなも充分分かっているんだろう。
お店顔負けのCP9特製ケーキを食い入るように見つめるルッチの瞳は殺しをしている時とは全く別の輝きを纏っていて、こんな顔もするんだ、と驚く一方彼もやっぱり人の子なんだな、とどこか安堵にも似たような感情が芽生えた。

「ほらよ」

ふいにジャブラがケーキと共にワゴンで運ばれてきた大量の酒の中から適当に一本のワインボトルを手に取るとルッチに向けて放り投げた。

「ワインはもっと丁重に扱えバカヤロウ。風味が落ちる」

「こんなに沢山のお酒どうしたの?しかもどれもハイクラス!」

「長官が化け猫にってよ」

なんだ、ツマンナムもちゃっかりプレゼント用意してたのね。たまには気が効くじゃない。これからは普通にスパンダムと呼んでやろう。

シュア、ボケっと突っ立ってないで酒を注げ。俺は主役だ」

「はいはい」

まったく人使いの荒い…。でも、今日ぐらいは許してやるか。
ケーキを中心に円を描くようにして並んだ私たちは酒の注がれたグラスを手にすると

『誕生日おめでとう、ルッチ!』

祝いの口上と同時に盛大に祝杯を交わしたのだった。

****

「主役がこんな所にいていいの?」

宴の輪から抜け出しグラス片手に一人バルコニーから景色を眺める背中に声をかけつつ、私は彼の隣に移動した。

「酒は静かに嗜むのが俺の楽しみ方だ」

そう言うルッチのことをいつもならばきっと孤独を好む人間なのだろう、ぐらいにしか思わなかった。けれど今は、その言葉の裏に何か陰りが感じられるのは先刻、幼い頃から身寄りのいないことを語りながら不敵に笑っていた彼の表情に少し、ほんの少しだけ寂しさが入り混じっていたことに気付いてしまったからかもしれない。

「ルッチはさ…一人でいることに慣れすぎたんだよ。
 でも、今はこうして生まれてきた奇跡を喜び合える仲間がいる」

「ふん、このメンバーともいつまで居られるか…」

「もう、ネガティブだなぁ!少なくとも私はずっとルッチの側にいるよ」

私の言葉に、遠くに見える海を無表情で見つめていた彼の瞳に一瞬驚きの色が窺えたけれど、すぐにまたいつものポーカーフェイスに戻ってしまった。
だけど1つだけいつもと違ったのは、浮かべた笑みが皮肉めいた不敵なものじゃなくて柔らかな微笑みだったってところ。

「ふっ、それはプロポーズと受け取っていいんだな?」

「どうしてそうなるの!?」
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