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【ルッチ】既成事実 1

「よし、今日も時間通り!」

ガレーラ本社に到着したシュアは、腕時計に視線を送りながら満足気に頷いた。
だが仕事が始まるにはまだ少し早い時刻。シュア以外の職人の姿も見受けられない。しかし彼女はいつもこの時間帯に出社する。なぜなら…

「アイスバーグさん、おはようございます!」

見慣れた姿を見つけたシュアは軽快な足取りでその人物に歩み寄る。

「ああ、おはようシュア。ンマー、今日も1番乗りだな」

「えへへ、アイスバーグさんも相変わらずお早いですね!」

そう、この時間はアイスバーグも出勤する時刻。彼に思いを寄せるシュアは毎朝こうして彼と2人で談笑することを日課としているのである。シュアにとって1日の中で最も楽しみとする時間であった。

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「そうだ、お前に渡したい物があるんだ」

「?」

アイスバーグはポケットから綺麗に包装された小さな包みを取り出すとそれをシュアに手渡す。

「開けてもいいですか?」

「ああ」

シュア
がそっと包みを開ける。すると中から出てきたのは綺麗なガラス細工だ。

「わあ…!」

「昨日セント・ポプラに出張した際に見つけてな。こういうの好きか?」

「はいっ!(アイスバーグさんがくれたものならなんでも)大好きです!
 ありがとうございます!!」

満面の笑みで応えるシュアにつられてアイスバーグも微笑む。

「そんなに気に入ってもらえるとプレゼントした甲斐があるな。
 ンマー、俺はそろそろ仕事に取り掛かる。じゃあな」

そう言って去るアイスバーグの後ろ姿に向かってシュアがもう一度礼を伝えると彼はヒラヒラと後ろ手に手を振って応えた。

シュア
はアイスバーグの姿が見えなくなってからも、うっとりとその場でガラス細工を眺めていた。

「アイスバーグさんが私のために…」

ほんのりと頬がピンク色に染まるシュア。自然と口元も緩む。しかし…

「そんなアホ面をした奴がCP9の一員とは、組織の威厳が損なわれるな」

突如背後から現れた人物に耳元で囁かれた言葉に、シュアはムッと顔を顰める。

「ふん…あんたみたいにガラの悪い顔じゃなくてごめんなさいね、ルッチ」

言いながらシュアはガラス細工を開ける前のように丁寧に包み戻すとそれを大事そうにポケットに仕舞う。ルッチはその工程を鋭い目つきで追っていた。

「恋愛などくだらんものにうつつを抜かすなバカヤロウ。任務の支障となる」

「そんなこと一々言われなくてもわかってるわよ」

「ならばもうあの男に想いを馳せるのは止めろ」

「…………。」

ルッチの忠告に対し黙り込むシュア。その表情には陰りが差す。

「…あんまりコソコソ話していると怪しまれるから先にドックへ向かうわ」

結局ルッチの忠告に関しては触れず、シュアは素っ気なく彼の前を後にしたのだった。

****

バンッ!

ルッチはブルーノの酒場のドアを乱暴に開けて店に入るなりドカッとカウンターの席に腰掛けた。
今は昼時。夜の開店に向けて準備をしていたブルーノは珍しく不機嫌さを前面に押し出すルッチに少々驚きを覚えたが、敢えて表情には出さず慣れた手つきでグラスに水を注ぎルッチの前に差し出す。ついでにカウンターテーブルに羽を休めたハットリには小皿に入れた餌を出してやる。

「昼飯でも食いに来たのか」

「生憎そんな気分ではない」

正直酒を飲みたいと思うほどにルッチは気が荒れていたが、午後も造船の仕事を控えているため大人しく差し出されたグラスを手に取り中に入っている無味の液体を口に含む。

シュアのことだが…」

ルッチの怒りの原因に薄々気付いていたブルーノは予想通りの彼の言葉に「やはりな…」と心の中で呟くがそのまま黙って耳を傾ける。

「愚かにも、あの女が抱くアイスバーグへの情愛は確実に深まっている。
 俺の忠告にも耳を貸さんほどにな。最早あいつが寝返るのも時間の問題だ。
 まったく、くだらんものに翻弄されやがって…」

確かにこのままアイスバーグが政府に非協力的な態勢を取り続ければ、いずれCP9が強行手段に出るのは明らか。だが、シュアがアイスバーグに思いを寄せている以上、彼女がそれを阻止しようとすることなどブルーノも容易に想像できた。

「しかしルッチ、仮にシュアが任務の邪魔をしようとも消せばいいだけだ。
 所詮あの女一人では我々に太刀打ちなどできない」

シュア
の裏切りなど、どうってことないという風にブルーノはさらりと言ってのける。
しかしルッチはブルーノの発言に対し反応を示さなかった。いや、眉間の皺を更に深く刻みこむといった一応の反応は示すが、口は固く閉ざして黙り込んでいる。
ブルーノはそんなルッチを目の当たりにし、彼の心情が冷静さを欠いていることを悟ったと同時に、その焦りの原因が何なのかも感づいてしまった。 

なるほど、邪魔者は徹底的に排除する彼がシュアを邪魔者とみなしたにも関わらず、彼女に手を出さないワケがわかった。まさか恋心を「くだらんもの」と謳っていた彼自身もそれに弄ばれるとは…。
ブルーノの頭に一つの不安が過った。

「あの女を…シュアを殺しはしない」

先ほどまで言葉を口にしなかったルッチが徐に口を開いたかと思えば、それはブルーノがたった今抱いた不安そのものであった。

「ルッチ、一時の感情でお前まで道を見誤るな。裏切り者は命を狙われて当然だ」

ブルーノは思わず威圧の籠る口調になるが、ルッチは何食わぬ顔で餌をつつくハットリの頭を撫でた。

「殺しはしないと言えば言葉足らずだな。
 正式には、殺すようなことになる前に裏切りを防ぐ。
 だが、それでもあいつが裏切れば…容赦なく息の根を止める。この手でな」

ルッチはハットリから離した手をゆっくりと力強く握ってみせる。その仕草は、まるで手中にあるシュアの命を捻り潰すかのようであった。

「そろそろ戻る」と言って席を立つルッチ。彼の去り際にブルーノは一つ質問を投げかけた。

「どうやって裏切りを防ぐ?」

「……既成事実、とでも言うべきか」

それだけ告げる彼の表情は酷く冷酷なものだった。

****

一方、昼休憩により、ほとんどの職人たちが持ち場を離れたドック内では積まれた木材の上に腰を掛けるシュアの姿があった。
シュアはアイスバーグからのプレゼントを手に、それをただ静かに見つめる。煌びやかに輝くガラス細工だが、それに反して彼女の表情は曇っていた。原因は今朝のルッチとのやり取りにあった。

"もうあの男に想いを馳せるのは止めろ"

ルッチのその言葉が頭の中をぐるぐると廻る。しかし、シュアはルッチに言われるずっと前からアイスバーグへと走る気持ちを止めようとしていた。だが、思いとは裏腹に気持ちは日に日に彼へと惹かれる一方。彼を深く愛してしまった以上、彼の命と引き換えに任務を遂行するなどとてもできない。しかし、彼を助けようとすれば自分も政府に非協力的人物だと判断され命を狙われる立場となる。

「はぁ…どうしたものか…」

不毛な葛藤の末、出たのは重苦しい溜息。
するとその時、後ろから急に冷たい物体が頬に当てられ、冷やりとした感覚にシュアは思わず「ひゃっ」と声を上げた。

「なーに浮かねぇ顔してんだよ」

「パウリー…」

振り返ると視界に入ったのは二本のジュース瓶を片手に持ち意地悪そうに笑う男の姿。
彼はシュアの隣に腰掛けると、持っていたジュース瓶の一本を彼女に手渡した。

「ほらよ」

「あ、ありがとう」

「お前さっきからずっとここに座ってるだろ。
 ちゃんと昼飯食わねぇと午後の作業もたねぇぞ?」

瓶の栓を開けてゴクゴクと豪快に喉を鳴らしてジュースを飲むパウリーに「心配するんだったらジュースじゃなくてもっと腹持ちのいいものをよこせ」と、いつもなら減らず口を叩いているところだが、生憎今のシュアはそんなことを言う気力もない。
「お腹空いてないから」とだけ告げ、再びガラス細工に視線を落とした。

するとパウリーも横から覗き込んでくる。

「それ、どうしたんだ?」

「もらった…アイスバーグさんから」

ボソリと意中の相手の名前を口にしたことでシュアは今朝の彼とのやり取りを思い出し頬をほんのり赤らめる。

「お前って本当すぐ顔に出るよな」

分かり易い奴だ、とパウリーが苦笑を零したその時だった。

「おい、ガレーラの職人ども!」

唐突にドックに響き渡る声にシュアとパウリーは入り口の方を見遣る。
するとそこには先日船の修理を交渉しに来たものの横暴な振る舞いにより職人たちに痛めつけられた海賊が。

「この間はよくも俺たちをコケにしてくれたな!だが今日は前みたいにはいかねぇぞ。
 なんせ、50人の部下を連れて来ているんだからな!今日こそお前ら全員ぶっ潰してやる!」

海賊たちは啖呵を切ると一斉に襲い掛かってきた。

「あいつら…ったく、仕方ねぇ野郎どもだ」

瓶を置き海賊たちと戦闘を始めたパウリーに続いてシュアもアイスバーグからのプレゼントを
早々とポケットにしまうと応戦にあたった。
ドック内の職人の数が少ない時の襲撃だったため人数の面で不利な立場に立たされたが、CP9の実力を誇るシュアにはどうってことはなかった。

「くっ…こいつ、女のくせになんて強さだ!」

シュア
の身のこなしに手も足も出せず次々と熨されていく海賊たち。
しかし順調に敵を倒していたその時、

「あっ、」

シュア
が蹴りにかかろうと足を振り上げると、彼女のポケットからキラリと光るものが零れ落ちる。

「(アイスバーグさんから貰ったガラス細工…!)」

乱闘に紛れて割れてしまってはいけない。シュアは咄嗟に屈み込みそれを拾うが

「よそ見してんじゃねー!おらぁ!」

「(しまった!)」

戦闘中にも関わらず、気を取られたことで敵に隙を見せてしまいシュアは海賊の攻撃を真に受けてしまった。

「(…、鉄塊、間に合わなかった…)」

不覚にも攻撃が急所を捉え、シュアはその場に蹲ると朦朧とする意識を手放したのであった。
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