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【ルッチ】サドルは既に回収済みです

「ルッチさん、長期任務御苦労さまです!」

正門前で敬礼する海兵たちであったが、ルッチはそんな彼らに視線もくれず塔へと向けて歩を進める。任務を終えた彼が無夜島の土地を踏みしめたのは一カ月振りのこと。
たかが一カ月。人生という長い単位でみれば、こんな期間など一瞬であるも同然。現に、帰って来たこの島に対して懐かしむ気持ちなど微塵も沸かない。
されど一カ月。短いように感じられる期間だが、それでも確実に時は流れている。
そうルッチが知らしめられた原因となったのは塔へと続く道中の広場で優雅に自転車を乗り回す今まで見たことのないシュアの姿を目にしたことにあった。

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「やったー!やっと乗りこなすことが出来たー!!」

「お見事です、シュアさん!」

至極嬉々として広場内を自転車でぐるぐる徘徊するシュアと、それを褒め称えるエージェント。なんともシュールな光景にルッチの足も思わず止まらざるを得ない。しかし、どう声をかけていいのやら…。ルッチは暫く呆然と二人の様子を凝視する他ないのであった。
すると

「ルルルル、ルッチさん!?長期任務御苦労様です!!」

棒立ちするルッチの存在に最初に気付いたのはエージェント。挨拶が遅れたことに焦っているようだが今のルッチにとってそんなことはどうでもいい。

「おい、何だあの自転車は」

「はっ、司令長官からのプレゼントであります!」

「プレゼント?」

何でまた自転車なんかを…。自分の居ないこの一カ月の間に一体何の転機が彼女に訪れたというのだろうか。次から次へと疑問が浮かんでくる矢先、

「あ、ルッチ!お帰りっ」

漸くシュアも帰還した彼の存在に気付く。
キュッ、と軽快なブレーキ音を響かせルッチの目の前で停車したシュアは颯爽と自転車から降りると、これ見よがしにその愛車を自慢してくるのであった。

「エヘヘ、これいいでしょ。長官に無理矢理買って貰ったんだー」

「お前に自転車を乗るセンスがあったことに驚きだ」

「確かになかなかバランスが取れなくて最初は転んでばっかりだったんだけど、
 エージェントのお兄さんに一カ月みっちり特訓して貰ったの!」

「ほう…」

自分が留守にしていたのをいいことに一カ月間ずっとシュアを独占していたとな…。
只ならぬ殺気を感じ身震いするエージェント。だが、こうなってしまってはもうどうしようもない。已む無く彼はルッチの脳内暗殺リストにインプットされてしまったのだった。

「さ、明日は青雉と念願のツーリングだし、今日は早く帰って休もうっと!」

「は?」

「ん?」

さり気なくシュアの口から出てきた聞き捨てならない人物の名にすかさず反応を示すルッチ。

「おい、もう一回言ってみろ」

「ん?」

「その前の発言だバカヤロウ」

「さ、明日は青雉と念願のツーリングだし、今日は早く帰って休もうっと!」

「ダメだ(即答)」

「何で!?」

「何ででもだ」

断固として反対するルッチにシュアも負けじと猛抗議するがそれでも彼は折れない。

「もうっ、ルッチのケチ!
 ていうか何でわざわざルッチの許可が必要なのよ!ケチ!
 こうなったら明日轢き倒してでも出掛けてやる!どケチ!」

「……三度も言うな泣くぞ」

しかし散々ケチと暴言を浴びせたシュアは反省するどころかあっかんべーと舌を出すと自転車に跨り暴走車の如く去って行ってしまった。

「青雉め…俺の目の届かぬところでシュアとのデートを企むとは許さん」

そんな二人のやり取りを終始傍観していたエージェントはルッチの殺意の矛先が余所へと向いたことにホッと胸を撫で下ろしたとか。

****

翌日

「ルッチ様、朝食をお持ち致しました」

ノックの後に聞こえた猫撫で声に適当に応答すれば食事を乗せたワゴンと共に給仕が入室する。いつもならば朝食が届くこの時間帯は既に身だしなみを整い終え読書に勤しんでいるルッチだが、如何せん昨日は長期任務から帰還したばかりで疲れが溜まっていた為か少々寝過ごしてしまったようであり、今日の彼に限っては未だ着替えの最中であった。別に裸を見られようがどうってことはないが朝食をテーブルに並べ始める給仕の熱い視線が露わになった逞しい上半身へとチラチラ注がれ鬱陶しい。

「もう下がれ」

「は、はい…」

コーヒーが淹れ終わるのを見計らってそう告げれば、頬を染めていた給仕は名残惜しみながらも恭しく頭を下げルッチの命令に大人しく従う。しかし

「ルッチーーーーーー!!!」

部屋を後にする給仕と入れ違いに今度は声を荒げたシュアが部屋に押し入って来たのであった。

「朝っぱらから騒々しい奴だな。少しは給仕の淑やかさを見習ったらどうだ」

「うるさーい!誰のせいでこんなに怒っていると思ってんのよ!」

「知るか」

「シラを切るな!アンタでしょ、夜中にこっそり私の自転車のサドル盗んだの!
 これじゃ乗れないじゃない!さっさと返せ!」

「そんなに何かに乗りたいのなら俺の膝の上にでも乗ればいいだろう」

ソファに腰掛け「さぁ、来い」と己の膝をポンポン叩くルッチ。
もうダメだコイツ…!
一気に脱力感をきたしたシュアは最早返す言葉が見つからない。すると、シュアが勢いを失ったのをいいことに今度はルッチの反撃が。

「そもそも何故そんなに必死になる?」

「え?」

ソファから立ち上がりシュアに詰め寄るルッチ。

「そんなに青雉とツーリングを楽しみたいのか?」

ルッチが距離を詰める度にジリジリと後ずさるシュア。しかし

「青雉のことが好きなのか…?」

ルッチのその言葉と同時にシュアの背中が壁に行き止まり、とうとう追い詰められてしまった。何だかとてもセクシャルな雰囲気に感じるのはルッチが上半身を露出しているからだろうか。やけに恥ずかしくて此方を射抜く鋭い瞳を見返すことなどできず、だからと言って視界にチラつく筋肉を凝視することもできず、シュアはほとほと目のやり場に困り忙しなく視線を彷徨わせるのであった。

「どうなんだ?」

「…ルッチに関係ないじゃん…」

「俺には言えないことなのか?」

「……うん……」

「そうか…。ならば滅茶苦茶に犯す」

「えぇ!?わ、分かった!言います!言います!!」

さすがに観念したシュア。大きな溜息を一つ吐いた彼女は恐る恐る内ポケットに手を忍ばせる。そして何を取り出すかと思えば出てきたのは一冊の本。それは男と女が手を取り合う絵が描かれている所謂少女漫画という代物であった。
そんなものを内ポケットに携帯するなんてどうかと思うが…。しかし今、注目すべきなのはそこではない。ルッチは心に浮かんだツッコミを口にするのをグッと堪え無言で漫画を受け取ると、一先ずパラパラとページを捲ってみる。
内容はどうやらありがちな青春ラブストーリーのようだ。右から左へ流れるように話を目で追っていたルッチ。しかし、とあるシーンで彼のページを捲る手が止まった。それは男と女が壮大な夕日をバックに自転車を漕いでいるシーン。

「……まさかとは思うが、これに憧れたとか言うんじゃないだろうな?」

「そうだよ…?」

「……くだらんな」

「ほらね!ルッチには漫画的展開に憧れる乙女の気持ちなんか分かりっこないって
 承知してたから言いたくなかったの!」

「憧れるなら男女が二人乗りでもしながら愛を語るシーンに憧れるだろ、普通。
 なのに何でお前はよりによって
 気狂いのように男女がレースしているシーンに憧れてるんだ。
 こればっかりは理解不能だ」

そう、ルッチが開いたページには淡いラブロマンスとは程遠い、汗水垂らして自転車を必死に漕ぐ男女の姿が描写されているのであった。

「キャーー!もう恥ずかしいからそれ以上何も言わないでっ」

発狂しながら赤面する顔を両手で覆い隠すシュア。その羞恥は世間と激しくずれた価値観を突っ込まれたからなのか、はたまた彼女にとっての憧れのシーンを大っぴらにしたからなのか、よっぽど変わり者である娘の心情は最早誰にも予想できない。そして、そんな掴み所のない彼女に心を奪われてしまっている自分も相当変わり者なのかもしれない、とルッチが思ったのも実は今回が初めてではなかったりする。

「ったく、余計な心配かけさせやがって」

ツーリングに拘っていた理由に呆れつつも内心では安堵の溜息を吐くルッチなのであった。

****

「あーあ、結局サドルは取り返せなかったし、ツーリングの夢はお預けだな~」

予定が中止となり暇を持て余したシュアは島内の中心街へと買い物に訪れていた。雲一つない快晴の今日はツーリング日和であることは確かだが、お買い物日和でもあるのだ。そうして散々ショップを巡った彼女の両手は今では持ちきれないほどの戦利品で一杯。

「やっぱ荷物持ちにフクロウでも誘えば良かったかしら」

あっさりと酷いセリフを呟くシュアだが、まあ偶には一人で楽しむのもアリかもしれないと自己完結しながら休憩がてらに広場へと足を運ぶ。どこかの島ほど立派な噴水ではないが、小さな場所で存在を示すには充分である噴水が中心に聳えるこの広場は周りに幾つか店が構えられておりエニエス・ロビーのちょっとした人気スポットでもある。中でもこじんまりとしたオープンカフェはシュアのお気に入りであり、噴水を眺めながら頂くブレンドコーヒーは格別なのだ。
彼女は本日もお決まりのコーヒーをオーダーし、噴水がよく見えるいつものテーブルへ。太陽の光を纏ってキラキラ輝く噴水の水飛沫を二羽の小鳥が気持ち良さそうに浴びている。

「のどかだなぁ~」

そうして微笑ましい風景を瞳に映しながら香り立つコーヒーを口に含…

「ルッチさん、少し右に傾いてます!もうちょっと肩の力を抜いてください!」

「む…こうか?」

ブフォッ!?!?!?


突如視界を横切った光景に思わず盛大に噴き出してしまったシュア。大好きな味と香りは楽しむことなく無残に飛び散ってしまったのであった。

「ルッチーーーー!?アンタ何してんの!?」

シュアか。何って、見ての通り自転車に乗る練習だが?」

さも当然とでも言うような顔で自転車に跨るルッチ。そして側には自分が自転車の特訓でお世話になったいつぞやのエージェント。

「え、何で?」

「俺が自転車に乗ったら何かお前の不都合になることがあるのか?」

「いや、そういう訳ではないけど…」

その光景って私の時よりよっぽどシュールに思える、とは言わない方がいいのだろうか…。

「あの…それで、私のサドルはいつ返してくれるのでしょうか…?←結局話題逸らした」

「まァ、もう少し待て」

「もう少しって?」

「俺が自転車を完璧に乗りこなせるようになったら返してやる。
 それでツーリングでもレースでも付き合ってやろう。
 後、二人乗りとか二人乗りとか二人乗r「本当!?やったー!楽しみに待ってるね!早く乗れるようになってね!!」

「人の話は最後まで聞けバカヤロウ…。
 ったく、レースに俺が勝った時は覚悟しとけよ」

その日から、自転車の特訓に励む殺戮兵器の姿がエニエス・ロビーのちょっとした名物となったのであった。
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