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【カク】drink it down

「ねぇカク、聞いてる?」

シュア
の呼びかけで混濁していた意識が引き戻される。
目の前のテーブルに並べられた料理をぼんやりと見つめていた瞳を正面に向けると不服な顔をした彼女と視線が合った。

拍手[1回]


「ん?聞いておるぞ?」

「嘘。じゃあ私がさっき言った質問に答えて」

「質問?」

きょとんとするわしにシュアは「やっぱり聞いてないじゃない」と脹れた。
彼女はCP9の中で最年少。彼女がこの組織の一員に加わった当時、一番年齢も近いから打ち解けやすいだろうということで、わしは長官から彼女の教育役を任された。最初は面倒にしか思っていなかったが、任務に同行したり、六式のトレーニングに付き合う内にまんまと長官の思惑通り親近感が芽生えてしまった。
それから随分と時が経ち、シュアももう一人前と言えるほどに成長したが、二人掛かりの任務があれば好んでペアを組むほどに今ではわしとシュアの仲は懇親なものとなっていた。
そしてそんな関係が築き上げられた頃には既にわしの中で彼女の存在は特別なものとなっておった。シュアだってそれは同じじゃと思っていた。じゃが…。

『カク、聞いて聞いて!私ね、ルッチと付き合うことになったんだ!
 

 ………そうか、よかったのう。

 うんっ!』

こんなやり取りをしたのは一年前のことじゃった。頷いたシュアの顔はわしが今まで見た中で一番幸せそうじゃったのをはっきり覚えとる。
一方でわしはどうしようもない虚無感と絶望感に襲われた。ずっと側にいたのはわしなのに。今までずっと大事にしてきたのに。それなのに、どうしてわしじゃないのだろう。頭の中を駆け巡る不満は怨恨となってわしの心に鬱積した。

シュア
は度々わしの前でルッチのことを愉し気に語った。今この時だってそうじゃ。

「すまんすまん。少し疲れてついボーっとしてしまったわい」

わはは、とわしはおどけてみせる。けれども、こうやって彼女に向けた笑顔とは裏腹に心中では憎悪にも似たどす黒い感情が静かに蠢いていた。
疲れているなんていうのも嘘。本当はシュアの口から他の男の話を聞きたくなかっただけじゃ。

****

今日は久方ぶりのシュアとの任務であった。特にアクシデントも起きず、滞りなく任務を遂行したが、一段落ついた頃には既に夜が更け始めていたため、わしらは近くのホテルにて身を休めることにした。
そしてルームサービスの食事を取りながら彼女の話に耳を傾けるという現在に至る。

「だからぁ、もうすぐルッチと付き合って一年目の記念日だから
 何か特別なことをしようと思うんだけど何がいいかなって話よ」

シュア
はワインの注がれたグラスを手に取りそれを口に運ぶ。傾けたグラスの縁から赤黒い色をした液体が彼女の口内へと流れ込み、細い喉が嚥下により上下する。その仕草がやけに色っぽくてわしはつい釘づけになってしまった。

こうしてシュアと二人でゆっくり過ごすのはいつぶりだろうか。昔は一緒に任務に出掛けてはその度にシュアが「もう疲れたから帰還するのは明日にしよう」と駄々を捏ねるものだから宿に泊まることなど日常茶飯事であった。
流石に同じベッドで眠ることはなく、部屋を二つ取り別々に夜を過ごしていたが、それでも食事の際には一緒に酒を酌み交わしながらくだらない話に花を咲かせていた。わしはシュアとのそんな時間が大好きじゃった。じゃから、今回のシュアとの任務でもまた前見たいに馬鹿騒ぎするのをわしは楽しみにしておったのに実際彼女が口にするのは愛する男のことばかり。心底がっかりじゃ。
じゃが、今日わしが楽しみにしていたことは実はもう一つある。

「ルッチとの記念日のことなど考える必要はない」

「え?」

わしは徐に手を伸ばすとシュアの顎を持ち上げ、血の色に似た液体で濡れた唇を親指でなぞる。

「記念日を迎える前にわしが全て壊してしまうからのう」

ニッコリと笑ってそう告げるもシュアは何を言っているのか分からないとでもいうように呆けているが途端、彼女の身体がビクリと大きく跳ねた。
……そろそろ薬が効いてきたかのう。わしはシュアが飲み干したワイングラスを横目に映す。薬効により頬を紅潮させ息を乱すシュア。潤んだ瞳で此方を睨む様はわしの欲情をひどく煽った。

「カク…どうしてこんなこと…」

どうして?やっぱりシュアはわしのこと、なんにもわかっていないんじゃな。今までずっと側にいたのに。
でも安心しろ、シュア。わしが抱く恋情、孤独、絶望、憎しみ、今からじっくり教えてやるわい。その躰にのぅ…?
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