忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【カク】8月7日

あー疲れた…。どれだけ仕事がハードでヘトヘトになっていても今日ほど体力と気を使う帰り道は今までなかったわ。
私は莫大なエネルギー消耗の元となる人物であるカクに視線を送るも、当の本人は心中で嫌味を吐かれているとも知らず完全に私の介抱に身を委ねている。彼の意識の殆どは夢の世界にぶっ飛んでいて今頃そっちの世界の彼はお花畑に囲まれているのかもしれない。そしてどこか遠くの方にある意識とは裏腹に体重の殆どは肩を貸している私に圧し掛かっているものだから、まあシンプルな話とてつもなく重いのですよ。か弱い女の子(自称)が一介の男を支えて歩くなどそれはもう体力が著しく削られる所為なのですよ。まったく、どうして私がこんな苦労をしなきゃいけない羽目に…。

拍手[0回]


今日はカクの誕生日だから皆でブルーノの酒場に集まってお祝いの宴をしていたまではよかった。主役だからか、カクはいつもより楽しそうで、調子良くパウリーと飲み比べなんかもしていた。だけど…

「うう~、気持ち悪ィ…」

「パウリー…まだまだじゃ…。ワシはまだ飲めるぞ…」

『カク、お前も限界だろう。もうその辺にしておけ、クルッポー』

数時間後、カクとパウリーはお互い見事なまでに酔い潰れてしまったのであった。そんな二人のあられもない姿にルッチは目も当てられないといった様。私はといえばテーブルに突っ伏す二人を眺め他人事程度にしか思っていなかったわけだけれども、しかしルッチの次に出した発言により、そう暢気でいられる場合でもなくなってしまった。

『コイツ等が自力で帰るには無理がありそうだな。シュア、カクは頼んだぞ』

「は、何で!?」

『クルッポー、パウリーの方がいいか?同じ方向の俺が送った方が効率がいいと思うが』

「ちがう!ルッチが二人とも送ればいいじゃん」

『両手に酔っ払いなど迷惑以外の何物でもない』

「だからといって私に預けられてもこっちだって迷惑この上ないよ!
 それに私、カクの家知らないよ?」

『なら、お前の家に一晩泊めてやれ』

「ええ!?年頃の男と女が一つ屋根の下にいるなんてそんなハレンチな!パウリー怒るよ!?
 あ、それとも何か期待してる?やだ、ルッチってばエッチ☆……あっ、うそうそ!待って!
 冗談だって!え、マジで置いてくの!?ねぇ!ねぇってば!ルッチー!!」

私のジョークが通じなかったからか、はたまた元から私の意見を聞き入れる気など無かったのか、ルッチはパウリーを担ぐとさっさと店の扉へと向かい、焦る私の声も虚しくその背中は夜道へと消えていってしまった。

くそぅ…ルッチの奴、本当に私とカクだけ残してさっさと帰りやがって~…!私はアンタみたいに男一人軽々と背負えるわけじゃないっての!
カクが支えられながらでも辛うじて自分の足で歩いてくれているからまだ良かったものの、担いで帰るしか仕方がない状況だったら道のど真ん中だろうが容赦なく私はこの男を放置して帰っていただろう。
ていうか普通逆だよね?足元が覚束ない私の目の前に王子様が現れてお姫様抱っこで家まで送ってくれるっていうのが私の中で結構憧れだったりもしたんだけど…

「何でこうなるかなぁ…」

つい口から零れた不満はカクの耳にもルッチの耳にも届くことはなく、ただ静かな夜の闇に溶けていくだけだった。

****

やっとの思いで自宅に辿り着き、なんとかカクをベッドまで運び込んだと同時に右肩に圧し掛かっていた重みと頭を支配していた鬱憤から私は漸く解放される。

「あー疲れた…」

そしてフィニッシュに本日何度目になるだろう疲労の溜息を盛大に吐き出したのであった。
それにしても、ベッドの上でスヤスヤと眠るカクの表情の穏やかなこと。長い睫毛は微かに揺れ、薄く開いた唇が彼を少し少年のように見せる。
こんなあどけない寝顔を見てるとなんだか…

ムカついてきた。

「まったく、人の苦労も知らないで…」

でも、普段どれだけ沢山お酒を飲んでも平常を失わないカクがこんなになるまで酔い潰れるなんて。きっと今日という特別な日を彼は大いに満喫したのだろうな。そう思うとなんだか微笑ましいや。叩き起こそうかと思ったけど、やっぱりそっとしておこう。
そんなささやかな優しさにより、ベッドで眠るカクをそのままに、私はソファで寝るため回れ右をする。
女性が優遇されるご時世だというのに同僚の男にベッドを譲って自分はソファだなんて、どこまでたくましいのだろう私は。と、軽くショックを覚えながらもソファへと向かって一歩踏み出した時、何かに引っ張られるような違和感に私は足を止めた。

「……?」

見れば寝ているカクの手が私の服の裾を掴んでいるではないか。一体いつの間に…。
負けじと服を引っ張ったり、裾を握る手を広げようと試みるが、しかし彼の手はガッシリと私の服を引っ掴んで離さない。

「ちょっと、どれだけ力篭ってるのよ!はーなーせー!」

そうやって四苦八苦している光景は傍から見たら相当マヌケだと思う。だからといって大人しくこのまま朝が来るのを待つなんて御免だ。私は一刻も早くこの疲れを癒したいのだから。
そうしてカクの手を懸命に振り解こうとしていると

「ぷっ、クックックックッ」

「!?」

今度は喉を鳴らして笑い出したカク。すごい寝言だな、なんて思い顔を上げると、こちらを楽しそうに窺うカクと目が合った。

「いつから起きてたの!?」

「ワシは最初から起きておるぞ?
 でも寝とるフリをしてシュアをからかおうと思ったんじゃが
 予想以上に必死になっとるシュアを見たら堪え切れず吹き出してしまったわい、ワハハ!」

「ワハハ、じゃないわよ!」

私はカクのおでこに一発デコピンをお見舞いしてやる。

「もう!カクが酔い潰れたお陰でこっちは大変な思いしてヘトヘトなんだからね!
 そもそも何でそんなになるまで飲むのよ、馬鹿!」

「スマン、スマン。でも、今日はワシの誕生日なんじゃし
 これぐらい羽目を外してもいいじゃろ?」

「あのねぇ、誕生日っていうのは自分の好き勝手にしても許される日なんじゃなくて
 健やかに歳を重ねることができたのは周りの人たちのお陰です、ありがとう
 っていう気持ちを伝える日なんだよ?」

「ふむ、じゃあ…」

「ぅわっ!?」

突如、カクが手を引っ張るものだから私はバランスを崩し引き寄せられるがまま思い切りベッドへと倒れ込んでしまった。そうして視界が反転し、背中で布団の柔らかさを認識した時には既に私の上には覆い被さるカクの姿が…。

「何この状況!?」

シュアに感謝の気持ちを分かり易く体で伝えようと思ってのう」

「……カク、まだ酔ってるの?」

「いいや、ワシは酔っとらんぞ、初めから」

「初めからって?」

「言葉の通りじゃよ。
 シュアもあれぐらいでワシが酔わんことぐらい知っておるじゃろう?」

確かに、今まで何度も共にお酒を交える機会はあったけれど、カクが悪酔いするようなことは今まで一度もなかった。それでも、つい数分前の彼の姿は明らかに酔っ払っているとしか言いようのないものだったのだ。
しかし、どういうわけか、私を真っ直ぐに捉えるその瞳はバッチリと焦点が合っているものだから彼の言っていることはどうやら間違いではないらしい。
でも、ちょっと待てよ。ということは…

「じゃあ、酔い潰れたのは嘘だったの!?」

「そうじゃよ?」

ケロリと肯定するカクに最早私は返す言葉も出ない。
あれだけ苦労した帰り道、あの時もずっと演技してたってことかよっ。もう意味がわからん。この男の考えていることは私にはわからん。

「一体何の為に…」

「うーん…スマン、シュア。好きじゃ」

「え」

瞬間、唇に感じる温かくて柔らかい感触。それがカクの唇であると気付いた瞬間、重なった部分に集中する熱が全身に伝導されたかのように私の体は一気に熱くなった。
やがて唇はゆっくりと離されたけれど残された熱が冷めることはなく、それどころか私を見下ろすカクの真剣な眼差しに私の熱は更に上昇してしまう。

「いいじゃろ?今日はワシの誕生日なんじゃし」

「よ、よくない!」

だってさっき言ったじゃん。誕生日は自分の好き放題できる日じゃないって。何より…

「もうとっくに日付変わってるけど!」
PR

プロフィール

HN:
新堂モラトリアム
性別:
女性
自己紹介:
当サイトは個人ファンサイトであり原作者様・出版社様・公式関係者様とは一切関係がありません。また著作権侵害を目的としたものではありません。公共PCからの閲覧、オンラインブックマーク、公式サイトとの同窓閲覧、中傷、荒らし、サイト内の文章や画像の無断転載や模倣等はご遠慮ください。閲覧は全て自己責任となりますので苦情は一切受け付けません。マナーを守って楽しめる方のみどうぞ。

NAME CHANGE

ブログ内検索

ご意見があればお気軽にどうぞ