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【カク】ぼくだけの特別

身を刺すような厳しい寒さから一転、穏やかな気候が続く季節にこのウォーター7も桜の見頃を迎えた。

「ほう…夜桜とは粋じゃな」

いつものように職場に出勤したわしは社員掲示板の前に張り付けられているチラシに注目した。そのチラシにはアイスバーグさんが企画したのじゃろうか『花見大会』と派手なロゴででかでかと書かれている。その下には日程が記されており、週末の仕事が終わった時間帯でもある18時からだと確認できた。
そんなチラシを眺めぼんやり掲示板の前に立っていると、急に背中に重みを感じたと同時にふわりと甘い香りが鼻先をくすぐった。

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「なになに~、『花見大会』かぁ。もう桜満開だもんね」

シュア…いきなり背中に飛び乗ってくるんじゃないといつも言っておるじゃろ。」

首を少し傾けて視線を送るとシュアは無邪気に笑って潔くわしの背中から離れた。
彼女は挨拶代わりなのか、よくこうやってわしの背中に飛びついてくる。こんなことをされると、わしのことが好きなんじゃないかと最初は自惚れておったが、悲しいことに彼女がこれをするのはわしだけでなく、パウリーやルッチ、他の誰にでも同等であることを最近知った。
しかし彼女に特別な意思などないと気付いても、密着する度に毎回わしの心臓が大きく脈打ってしまうから困ったもんじゃ。照れ隠しに拒否の態度を繕ってみても彼女は楽しそうに笑うだけ。まったく、人の気も知らんと…。

「カクは行くの?」

チラシを指さして尋ねてくるシュアに、わしは「どうしようかのぅ」と曖昧な返事をする。本当はシュアを誘いたいんじゃが…。どう切り出していいものか。ああ、素直に「一緒に行こう」と言えない自分の不器用さが腹立たしい。

「だったらさ、一緒に行こうよ」

「……え?」

わしが吐き出すのを躊躇していた言葉を気持ちがいいぐらいお前さんはサラリと言うもんじゃから驚いてつい呆けてしまった。するとお前さんの表情があからさまに曇る。

「嫌なの?」

「ち、違うんじゃ!その、吃驚して…。実はわしも一緒に行きたいと思っておったんじゃ」

「そっか、よかった」

顔を綻ばせるシュアはそれはもう開花した桜よりも華やいで見えた。まさか彼女から誘ってくれるとは夢にも思ってなかったもんじゃから嬉しさのあまり口元が緩む。しかし次の言葉にわしは耳を疑うのじゃった。

「じゃ、パウリーとルッチも誘っとくね」

「………。」

「さて、そろそろ現場に向かわないと遅刻になっちゃうよ」

と言ってわしを置いて歩き出す背に「ちょっと待て」と異議を申し立てたかったが、ああ、そうじゃ、お前さんはそういう奴じゃった。いつもわしに期待をさせておいては悪戯のように裏切ってみせる。
とことん人の気を汲めん娘じゃ、と呆れたが、そんなシュアを憎めないほどにわしは彼女に惚れ込んでおった。

****

そんなシュアとのやり取りからあっという間に時は経ち、今日は例の花見大会当日。
会場である公園は職場から近いということであり、仕事を終えたわしらはそのまま会場に直行した。到着すると既に沢山の人で賑わっており、辺りは熱気に包まれていた。しかしそんな人混みに紛れても、桜たちは存在が薄れることなく見事に咲き乱れている。

「きれいじゃなあ」

「ねえねえ、屋台がいっぱいあるよ!」

「お、酒もあんのか」

『ポッポー』

…やっぱりお前たちは花より団子か。軽く苦笑を浮かべるが、まあそれもいい。

「ンマー、お前たちも来たのか」

「「「『アイスバーグさん!』」」」

背後からの聞きなれた声に4人揃って振り返ればアイスバーグさんとその横にはカリファの姿。

『アイスバーグさんも来ていたんですかポッポー』

「俺たちと一緒に飲みましょうよっ」

「俺は主催者だから様子を見に来ただけなんだが…ンマー、一杯だけもらうとするか」

「そうこなくっちゃ」とパウリーが酒を注ぎ桜の木の下、わしらは杯を交わした。

****

どのぐらい談笑していたじゃろうか。ライトアップが一層際立ち、桜の美しさが増すほど夜は更け始めていた。一杯だけと言っていたアイスバーグさんは、まんまとパウリーのペースに乗せられ次から次へと酒を酌まれている。そんな時じゃった。

「アイスバーグさん、シュア、綿あめ食べたい…」

アイスバーグさんのスーツの裾を引っ張り上目遣いで甘えた声を出すシュア
こらこら、そんなかわいい真似をしたらほれ、ルッチが口元を手で押さえて悶えとるじゃろ。隣のパウリーなんて鼻血を垂らしながら「アイスバーグさんに向かってなんて破廉恥な!」とか言っておる。
無理もない。落ち着いて状況説明しているわしだって本当は萌え転げたいほどじゃ。

シュア、アイスバーグさんに無礼よ」

「いいんだ、カリファ。
 ンマー、シュア、そんな誘惑するような表情を人前で見せるもんじゃない」

「めっ」と軽く叱るアイスバーグさんもまんざらでもなさそうじゃな。わしは何だか少し心苦しく思えた。

「じゃ、買いに行くか。人が多いから離れちまったら危険だ」

アイスバーグさんがシュアに手を差し出す。
綿あめを買ってもらえるからか、はたまたアイスバーグさんと手を繋げるからなのか、ご機嫌な彼女がアイスバーグさんの掌に重ねようと伸ばしたその手を
わしは咄嗟に掴んでしまった。そして事もあろうにその場から彼女を連れ去った。

「え、カク?どうしたの?どこ行くの?」

少し驚きを含んだ彼女の声を無視して人混みの中を足早に潜り抜ける。みんなはどんな顔をしていたじゃろうか、どう思ったじゃろうか、そんなことどうでもよかった。とにかくあの場所に居ても立ってもいられなかったんじゃ。

ズンズンと突き進んで、一本の桜の木が佇むひと気のない小さな広場でようやくわしは立ち止まる。そして繋いでいた小さな手を引っ張り、体勢を崩したシュアを自身の腕の中に収めた。会場の賑やかな音が遠ざかったこの場所は、そよ風に揺れる桜の音だけが静かに響いている。

「カク…?」

遠慮がちに名前を呼ぶシュア。わかっておる。こんなことしてお前さんが困ることぐらい。でも、あのままアイスバーグさんと2人きりにしたらお前さんはあの人のものになってしまうような気がしたんじゃ。こんなのただの幼稚な抵抗に過ぎんかもしれんが…。
思わず彼女を抱きしめる腕に力がこもる。

シュアは…アイスバーグさんのことが好きなのか?」

意を決して尋ねたわしの気持ちなどこの期に及んで相変わらず図れないのか、シュアは「へ?」と間の抜けた声を出した。
「どうなんじゃ」と問いただそうとしたが、いや、こんな回りくどい聞き方をするのはよそう。わしが知りたいことはただ1つじゃ。

「一体わしのことをどう思っておるんじゃ」

「好きだよ」

お前さんは何の躊躇いもなくわしの待ち望んでいたセリフをいとも簡単に言ってのけるんじゃな。じゃが、わしは素直に喜べず大きな溜息を1つ吐き出した。

「どうせ、パウリーやルッチたちと同じぐらいって意味じゃろ。
 お前さんは皆平等に接しているつもりかもしれんが
 その行動や言動でわしはいつも期待しては裏切られる!少しはわしの気持ちも…」

考えろ、という言葉は最後まで口にすることが叶わず、こみ上げていたわしの気持ちは、彼女の唇によって流れ出るのを遮断された。

「こんなことするの、カクにだけだよ」

唇を離したシュアは照れ臭そうに、でも真っすぐわしの目を見つめて小さく呟いた。
ああ、わしはずっとこうして欲しかったんじゃ。他の誰にもしないことをして欲しかったんじゃ。わしだけを特別にして欲しかったんじゃ。
どうしようもない嬉しさに加え、舞い散る桜の花弁に包まれるシュアが美しく幻想的でこれは夢なんじゃないかと思った。
だから、今度はわしが桜色よりも少し赤みを帯びた彼女の唇にキスを落とし、伝わる熱や感触からこれが現実であることの幸せを噛みしめた。

「もう、わし以外の奴に触れんで欲しい」

「うん」

「さっきみたいな表情もわし以外に見せんで欲しい」

「うん」

キスを繰り返す合間に囁くわしの我儘も優しく受け入れてくれるシュア。そんな彼女が可愛くて愛おしい。

「じゃあ、私もお願い言ってもいい?」

「なんじゃ?」

「綿あめ食べたい」

……この娘は本当に人の気持ちを汲めなければムードもへったくれもなくフリーダムじゃな。でも、そんなお前さんをやっぱり憎めないわしの負けじゃ。

「早く行かんと売り切れてしまうのう!」

わしは彼女を抱き抱えると花弁舞う世界を勢いよく駆け出した。
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