忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【アイスバーグ】stay gold 1

「「アイスバーグさーん!」」

「パウリー、シュア。ンマー、走ったら滑って転ぶぞ」

「平気平k…んぶ!?」

「おわっ!?」

「ほら、言わんこっちゃない…」

絶え間なく天から降り注ぐ雪の中を廃船島に向かって手を繋ぎ、仔犬のように駆け降りてくる二つの小さな影が白銀の上に仲良く倒れた。

「ンマー、二人とも大丈夫か?」

散乱しているガラクタで怪我をしていないだろうか。
作業の手を止め、二人の側まで歩み寄ったアイスバーグは長い足を折り曲げて心配そうに窺うが、積もる雪の上に突っ伏していた影は彼の心配とは裏腹に元気よくその上体を起こした。

シュア!俺まで巻き込むなよな!」

「えへへ、ごめんごめん。それより、"せーの、"でいくよ?」

何やら口裏を合わせた後にコートに纏わり付いた雪を払うこともせずアイスバーグに向き合った少年少女。そして、「せーの、」というシュアの合図の後、パウリーの手にしていた箱が差し出されたと共に二つの無邪気な声が重なった。

「「アイスバーグさん!お誕生日おめでとう!!」

それは、まだ海列車が開通して間もない、遠い遠い昔の思い出。

拍手[0回]

****

「今日、夢を見て思い出したんだけど、もうすぐアイスバーグさんの誕生日でしょ?」

仕事終わり、夕日に染まる道を肩を並べて帰路に着く二人の間に飛び交う他愛もない世間話の延長で切り出されたシュアの話題に、すかさずパウリーは眉根を寄せて一層濃い紫煙を吐き出した。

「思い出したってことは忘れてたのかよ。恩師に対してそりゃ薄情すぎるぜ」

「町の復興とルッチたちが抜けた分の忙しさでうっかり忘れそうになってただけだもん!」

確かに、アクア・ラグナの被害となった町の修繕と本業の人手不足は、事が起きてからだいぶ時が経った今でも船大工たちに多端な日々を与えていた。加えて、ルッチとカクがいなくなったことによりパウリーに靡くファンが増え、隙有らば黄色い声に追いかけ回されるパウリー。しかし、人一倍多忙を被っている彼ですらアイスバーグの誕生日を確と憶えていたのだから、やはりシュアはどこか抜けているとパウリーには思わざるを得なかった。

「かく言うパウリーはもう何をプレゼントするか決めてるの?」

ところが、パウリーのやるせない視線を受けても決して自分の非を認めずお構いなしに話を続行するシュア。そんな負けず嫌いな面も、お間抜けな彼女の特徴の一つであることは長い付き合い上、とうにパウリーの理解の範囲に達している。パウリーはこれ以上シュアを責めても無駄だと悟り、質問の返答に意識を注ぐことにした。

「俺はまだ決定してはいねェが、候補としてはティラノの餌かな。
 近頃ティラノがすくすくと成長してきて餌代が尋常じゃないって
 前にアイスバーグさんが言ってたことあるし」

「ティラノの餌…。なんていうか…」

地味すぎる。
果たしてそれが恩師に対するプレゼントとして最適と言えるのだろうか。顎に手を当て思考を巡らせるシュアだったが

「いや、やっぱセンス疑うわ」

「な!?」

結論は揺るぎなく否定的なものであった。

「なんでだよ!?餌あげたらアイスバーグさん喜ぶだろ!?」

「アイスバーグさんを餌付けするみたいな言い方やめて。
 ていうか、アイスバーグさんの誕生日なんだよ?
 ティラノの餌あげるなんてまるでティラノが主役みたいじゃない」

「ぐっ…。じゃあ、一体何がアイスバーグさんのプレゼントに適してるって言うんだよ?」

「それはー…分かんないけど」

「なんだよ、でかい口叩いといて結局それか」

元は、何をプレゼントすべきか参考にしようとパウリーに尋ねたのだが、実際のところ彼は何の引き合いにもなり得なかったため、シュアが返答に詰まるのは当然のこと。しかし、パウリーの案を却下した以上、其れ相応のものを用意しなければならないことは最早必至。おまけにパウリーに鼻で笑われればもう後には引けない。負けず嫌いな性格がここにきて裏目に出たか。

「こうなったら絶対パウリーより上等なプレゼント用意して
 あんたに一言ぎゃふんて言わせてやるんだから!」

「おー!臨むところだ!」

負けじと対抗意識を燃やすパウリー。
日頃お世話になっている恩師に感謝の気持ちを込めて贈るプレゼントが何やら間違った趣旨へと珍走していることを止める者などいるはずもなかった。

****

仕事が多忙を極めていれど体は労わってやるべきだ、という社員思いの社長の有難いご厚意に免じて、与えられた休日をここぞとばかりに活用しシュアが出掛けた先は、高級ブランド店から日用雑貨など、あらゆる店が立ち並んだ島内でも人気を誇るショップ街。勿論、目的はアイスバーグへのプレゼント選びである。

「いろいろ目移りしちゃうけど、この数々ある店の中から最も優れた物を見つけて
 なんとしてもパウリーとの勝負に勝たなきゃ!
 そして、私の量り知れぬセンスでアイスバーグさんのハートを鷲掴み、そしてそして、
 
 "シュア、お前のプレゼントは世界一だ、結婚しよう!"
 "アイスバーグさん…喜んで"
 
 なんてことになったりしてーー!ぐふふふっ」

依然として趣旨を取り違えている上に、あろうことか激しくリアリティに欠けた妄想まで膨らましている始末。道のど真ん中で一人不気味な笑みを浮かべていれば通行人から白い目を向けられて当然だが、彼女は至って真剣。
そうして「よし!」と表情を引き締め気合いを入れ直したシュアは、早速手近な店へと姿を消したのであった。

****

数時間後、大きな水路を挟んで道を繋ぐ陸橋の上には序盤の勢いとは打って変わって欄干に項垂れるシュアの姿が。あれから何軒もの店を巡りアイスバーグに相応しいプレゼントを鋭意検討するも、どうやらしっくりくる代物が見つけられなかったご様子。

「いざ吟味してみると何を買えばいいのかさっぱり…」

そもそも、アイスバーグの好みも、欲してる物も把握していないシュアには彼が何をプレゼントされれば嬉しいかなど分かるはずもなかったのだ。

「思えば、私ってアイスバーグさんのことなんにも知らないなぁ…。
 あーあ、こりゃ、お嫁さんになる夢が叶う日もまだまだ遠いや…」

完全にあらぬ方向へと向かっていた趣旨が無残に散ったところでシュアは更にグッタリと橋に肘を付き流れる水路を見下ろした。
すると、ふいに鼻先の一点に澄んだ空気よりも一際ヒヤリと冷たい感覚が。それが雪だと認識したのはチラチラと粉雪を舞い落とす空を仰いでからだった。

「そういえば、夢で見たあの日も雪が降ってたな」

初めて海列車を目の当たりにして以来、船大工に憧れを抱き、暇さえあればパウリーと共に廃船島へと出向いては小さな造船会社の作業風景を飽きることなく眺めていた幼き日々。突き刺すような寒さも、あの頃と重ねれば不思議と愛しく思えた。
そうして懐かしい思い出に耽りながら絶え間なく降り積もる雪を目で追った先、

「あ…」

橋の下の水路に沿った歩道を足早に歩く見慣れた後ろ姿を見つけた。以前は、派手なストライプ柄のスーツと相俟って必ずと言っていいほど側に付き添っていた美人秘書の存在で遠目からでもよく目に付くと思っていたが、やたら派手なスーツがトレンチコートで隠れていることに加え、付人無き今でも其処にいるのが彼だと一瞬で判断できるのは、やはり彼自身が持つ独特なオーラの力なのかもしれない。

「アイスバーグさん」

橋の上から声を掛ければ、ピタリと足を止めたアイスバーグの此方を見上げる視線と目が合い、シュアは咄嗟に陸橋を駆け降りた。

「ンマー、シュア。走ったら滑って転ぶぞ」

「もう子どもじゃないんだから平気です」

言葉通り、彼女がドジを踏むことなく無事にアイスバーグの元へと到達できたのは成長の稔りか。しかし、白い息を弾ませ目の前へと駆け寄る姿はアイスバーグにとって、まだまだあどけなさが残っているように見えた。

シュア、お前ずっと外に居たのか?」

「えへへ、まあ。何で分かったんですか?」

「鼻が真っ赤だ」

「えっ!」

憧れの御人を前になんて様を。転びはしなかったものの新たな失態を指摘され、シュアは恥ずかしさで即座に手で鼻を隠すが、その手もかじかみ赤く腫れきっている。

「ンマー、手もこんなに赤くなっちまって」

見兼ねたアイスバーグは徐に手袋を外すとシュアの冷え切った手を取り、熱を与えるように優しく擦った。シュアのかじかんだ手の失われていた感覚が徐々に取り戻されていく。

「アイスバーグさんの手、あったかい…」

「手袋していたからな。職人は手を大事にしねェとダメだぞ、シュア

「じゃあ手袋買います、気が向いたら」

実際のところ、プレゼントに費やそうという意気込みをかけた全財産を自分の為などに削るなんてことは避けたいのが本音。しかし、そんなことは口が裂けても言えないので、ここは適当にはぐらかすのがベストかと思っての返答だったが、

「気が向いたら、という言葉を語尾に付ける時は必ず実行しないだろう、お前は」

「う…」

結果的に1パターンな自分を呪う羽目になるだけなのであった。ところが、

「手袋の購入でそこまで懸念するとは。
 シュア…お前、よっぽど生活が苦しいのか…」

どうやら心中で自身を咎めるシュアの表情が相当悲愴に見えたらしいアイスバーグ。持っていた手袋をシュアに付けてやるという親切まで見せてくれた。

「俺のでよければやる」

「え、いや、アイスバーグさん…」

「やっぱり俺のお下がりじゃ嫌か」

「滅相もない!寧ろ萌え…じゃなくて、生活が苦しいわけじゃないというか…」

「じゃあ、パウリーにギャンブルでも勧められて借金が嵩んでるのか?
 ンマー、お前らしくねェぞ」

「え、あ…はい…」

はい、じゃないだろう自分、と突っ込んだり、とんだイメージダウンを食らったショックや、パウリーを悪者に仕立てあげてしまったことへの申し訳なさなど、とにかく頭の中で様々な感情が入り混じるも、何より、アイスバーグの労うように見つめるその目が一番ツライ。
結局、耐え切れなくなったシュアは膨らみつつある話の収集がつかなくなる前に潔くアイスバーグに真実を明かそうと気持ちを折ったのであった。
PR

プロフィール

HN:
新堂モラトリアム
性別:
女性
自己紹介:
当サイトは個人ファンサイトであり原作者様・出版社様・公式関係者様とは一切関係がありません。また著作権侵害を目的としたものではありません。公共PCからの閲覧、オンラインブックマーク、公式サイトとの同窓閲覧、中傷、荒らし、サイト内の文章や画像の無断転載や模倣等はご遠慮ください。閲覧は全て自己責任となりますので苦情は一切受け付けません。マナーを守って楽しめる方のみどうぞ。

NAME CHANGE

ブログ内検索

ご意見があればお気軽にどうぞ