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【アイスバーグ】stay gold 2

「ンマー、俺の誕生日プレゼントを?」

「はい」

立ち話もなんだということで、近場のカフェへ立ち寄ったアイスバーグとシュア。さり気無く二人分のホットコーヒーをオーダーするアイスバーグはやはり手慣れていると関心しつつ、シュアはアイスバーグの心遣いを謹んで受けるのであった。
そうしてコーヒーカップを二つ乗せた丸テーブルと、向かって右斜めの椅子に座る本人を前にシュアは、パウリーへの対抗心と嫁の座を狙う疚しさはひた隠すも、日頃からお世話になっている上司に多大なる感謝の気持ちを最大限に込めたプレゼントを贈りたいという事実(?)を語ったのだが、アイスバーグの反応はというと、驚きはしていたものの、その表情はすぐに困ったような笑みへと変わってしまった。

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「ンマー、シュアの気持ちは嬉しいが、金をかけることだけが感謝の表れじゃない。
 高価な物をプレゼントされても俺が喜ぶ保証もないしな。
 要は、やり手の気持ちが籠ってりゃ額なんて関係なく受け手は何貰っても嬉しいもんだ。
 シュアだってプレゼントを貰うなら
 俺がたまたま通りがかったついでに買った高級菓子折りよりも
 パウリーが心を籠めて選んだケーキの方が嬉しいだろう?」

「いえ、アイスバーグさんがくれたものでしたら例え髪の毛一本だろうが
 とにかく何よりも嬉しいです」

「ンマー、すまん…俺の例えが悪かった…」

「冗談ですよ。アイスバーグさんの言いたいことは分かります。でも…」

アイスバーグに諭され、ことごとく趣旨を捻じ曲げた自分勝手な思惑は呆気なく捨て去るシュアだが、彼を心から喜ばせたいという気持ちだけは譲れない。

「せめて、どんな物が欲しいとか、好きな物とか参考程度に教えてください。
 ティラノの餌以外で」

このタイミングで飼いネズミの餌が出てくることに関してアイスバーグはただならぬ疑問を抱いたが、胸の前で手を組み懇願するシュアの必死さを見ればそんな疑問を口にするのはどうも気が引ける。
一先ずこの謎は自分の胸に閉まっておくことにしてシュアの訴えに応えるべきなのだろうが、
元々物欲のないアイスバーグは、自身が社長になり上がり金に不自由しなくなってからというもの、益々物欲のなさが助長されてしまったため、考えてみても欲しい物などそう簡単に思いつかないのであった。

「ンマー、ないな」

「そんなぁ!アイスバーグさんストイックすぎでしょ。
 本当に何も思い当たらないんですか?」

しかし、どうやら恬淡な彼にも望みが全くないわけではなさそうで

「強いて言うなら…側にいてほしい」

「え…」

シュアやパウリー、大切な仲間がいつまでも変わらず側にいてくれりゃ、
 俺ァ、他に何も望まねェさ」

「…………。」

そう言ってアイスバーグは徐にコーヒーを口に含むのであった。
しかし、暫く経っても何の返答も返ってこないことに不審を抱き、「どうした?」と反応を煽ると、それまで表情のなかったシュアは漸くヘラリと目を細めて笑った。

「え、えへへ…
 いきなり側にいてほしいって言われたもんだから照れちゃった。
 いやあ~、でも私だけに向けて言って欲しかったからちょっと残念だなぁ。
 あ、じゃあ私、そろそろ御暇しますね。
 アイスバーグさんもお忙しいのにお付き合いさせてすいませんでした。
 それからコーヒーも御馳走様です」

シュア?」

「では…!」

やや早い口調で捲し立てたかと思いきや深々とお辞儀をした後に勢いよく店を去ってしまったシュア
彼女の様子がおかしいと気付いたものの引き留めそびれてしまったアイスバーグは、置き去りになった飲みかけのコーヒーを目にしながら、まるで無理矢理に笑った彼女の姿を反芻するしかなかった。

 ****

"大切な仲間がいれば他に何も望まない"

そう呈したアイスバーグに対しシュアが言葉を失ってしまったのは、照れたわけでも、自分だけに向けられた言葉ではないことに落胆したわけでもなかった。
ただ、何ともないありふれた幸せを願うことが、消えることのない残酷な過去を持つ彼にとっては儚いことであるのだと気付き、悲しかった。
彼は、大切なものを失いすぎている。
遠い昔の楽しかった日々に終止符が打たれたことへの無念さも、苦楽を共にし、信頼していた仲間がいなくなった喪失感も、誰よりも実感し傷ついているのは彼だ。
しかし、惨烈な事件で失ったたった一人の師匠のことも、仲間だと信じて疑わなかった人物がある日突然消えた本当の理由も、彼の口から告げられていないシュアには慰めの言葉の一つも掛けることが許されないのであった。
そんな不甲斐ない自分が情けなくも思え、白銀に色付きつつある街中を駆け抜けるシュアは堪えていた涙を粉雪に紛れて散らせた。

****

一方、ヤガラレース会場ではその日、多くの観客に混じりレース観戦に盛り上がるガレーラ・カンパニー副社長の姿があった。
白熱したレースの結果、パウリーの獲得した配当金は

「12万ベリーか、俺にしては上出来だな」

自然と口許の緩むものであった。使い道は勿論、アイスバーグへのプレゼント。

「これでスッゲェ物をアイスバーグさんにプレゼントして
 生意気なシュアの奴を見返してやるぜ!
 先ずは借金取りにバレないように細心の注意を払わねェとな」

借金取りも馬鹿ではない。近頃、賭けに勝ったタイミングを狙ってパウリーに請求を仕掛けてくることを覚えたようで、待ち伏せしていた取り立て幹部に換金した金を丸々せしめられた経験は記憶に新しい。あの時の失態を二度と繰り返さないよう、パウリーは札束を荒々しくポケットに突っ込むと裏口からこっそり会場を抜け出したのであった。

その後も、取り立て屋にうっかり出くわさぬよう、路地裏などなるべく目立たない道を選び遠回りに遠回りを重ねて漸くパウリーが自宅であるアパートの屋根を目にしたのは、既に日が暮れ空気の冷たさも一層厳しさを増していた頃であった。
昼間から降り続けている雪がすっかり景色を白く塗り替え、視覚による刺激が余計に寒さを助長し、早く家に入って暖を取りたい気持ちがパウリーを逸らせる。しかし、家まで後数メートルといったところで一直線に向かっていた玄関の扉の前に何やら人影を確認したパウリー。暗くて視界が悪い上に影の主は微動だにせず蹲っているものだから知らない相手であれば、他人の家の玄関の前を陣取るただの不審者であるが、そんな人物の正体が幼馴染であることに間違いないというのは見覚えのあるコートがパウリーにそう教えていた。

「何もこんな寒いところで寝ることないだろ」

「馬鹿!寝てるわけないでしょうが」

「冗談だ…って、泣いてんのか?」

目の前まで歩み寄り、向かい合うように屈み込んで掛けた言葉に対し間髪入れずに飛んできたツッコミと共に潔くシュアの首は擡げられたが、その瞬間、彼女の瞳から一粒の涙が頬を伝ったのをパウリーはしっかりと捉えてしまった。そして

「うわああんっ」

目線が合ったのを契機に勢いよくパウリーの胸に飛び付いたシュアはとうとう噎び泣いてしまったのだった。
突然のタックルを間に受け新雪の上に尻餅をつくパウリーに構わずわんわん泣き続けるシュア。予想外の事態に困惑するパウリーだが、小刻みに震えるシュアを腕の中に収め時に雪の絡まる髪を梳き、なんとか彼女を落ち着かせようと努める。偶然触れたシュアの耳は異常なほど冷たく、彼女がとてつもなく長い間この雪の中に身を置いていたことを物語っていた。

「ったく、冷えすぎだ馬鹿。
 一体いつから此処に居たんだよ。風邪引く気か」

「うっ…、ひっく…、馬鹿は風邪引かないもん」

「泣いてても相変わらず減らず口は叩くんだな…。そもそも何で泣いてるんだ?」

「アイスバーグさんに…プレゼント何が欲しいか聞いたら
 私たちがいてくれれば他には何もいらないって…」

「おいおい、どうしてそれで大泣きする必要があるんだ。感動でもしたか?」

「違う…!アイスバーグさんが不憫で…
 なのに、私なんにもしてあげられないし…うわぁぁん!」

「…………。」

そう言えば、以前にも彼女は今みたいに泣いたことがあったな、とパウリーは、ルッチたちが消えた本当の理由についてシュアに問い詰められた時のことをふと思い出した。
あの時のシュアも、ルッチたちに騙されていたことを悲しむより先にこうやってアイスバーグのために泣いていた。信頼していた部下に欺かれた彼が可哀想だと。そして、彼の為に何もできない自分が悔しいと。
しかし、アイスバーグが決して傷ついた弱さを見せないのは、上に立つ者、そして男としてのけじめであることをパウリーは充分理解していた。

「馬鹿、泣くな。お前が泣いたらアイスバーグさんの立場がないだろ。
 それに、泣いたってルッチの奴等のことも無かったことにはならねェ」

「そうだけど…アイスバーグさん、一番慕っていた師匠だって失ってるんだよ?
 やっぱり可哀想だよ…うわあああん!」

やはり泣き止まないシュア
その上遠慮なく鼻水まで垂れ付けてくれるものだからパウリーはどうしたものかと途方に暮れる反面、雪が降りしきる空を仰いで「よく降るなぁ」などと、どうでもいい感想を胸に抱いた。

「…そういえばよ、いつの年かのアイスバーグさんの誕生日もこんな大雪だったよな」

「うん…」

「あの頃は、二人でなけなしの金を出し合って一緒にプレゼントあげたよな。
 ケーキ持って廃船島まで行ったけど、シュアが転んで、
 手を繋いでた俺まで道連れ食らってよ。
 その後、アイスバーグさんにケーキ渡したけど見事にグチャグチャになっちまってて」

「あは…そんなこともあったね。
 でも、ケーキが潰れたのは転んだせいじゃなくて
 パウリーがブンブン箱揺らしながら走ってたからだよ」

「お前、まだそれ言い張るか」

当時はそんなシュアの言い分に腹を立て口喧嘩に走るのを主役に宥められたものだ。そんな懐かしい話に花を咲かせていると、シュアの表情にいつの間にやら彼女らしい笑顔が灯る。

「なあ、シュア、たしかにアイスバーグさんは
 誰よりもツライ経験を沢山していろんなものを失っちまったが、
 それでも、変わらずに在り続けているものだってあるだろ?」

「うん…そうだね」

そうして頷いたシュアの目には、もう涙は浮かんでいなかった。

****

ウォーター7の英雄にとって誕生日というイベントはあまり歓迎できたものではなかった。理由は至って簡単。各界からの著名人による派手な演出や大袈裟な祝辞を受けるのが面倒であった。誕生日パーティーを開催するなどもってのほか。
従って当日は、浸透した我儘に一層拍車をかけ、朝一からことごとく予定をドタキャンする様を見せ、そうして予定が手持ち無沙汰となった彼は、愛ネズミのティラノサウルスと仲良く揃って優雅な朝食の時間を堪能していたのであった。

「ンマー、ティラノ、今日は暇な日だ。たまには一緒に散歩にでも出掛けるか」

すくすくと成長を遂げる愛ネズミは育ち盛りといっても食欲の旺盛さから少々体型が気になってきた今日この頃。やはり仕事を放棄した男の語るセリフではなかったが、朝食を終えたアイスバーグはティラノサウルスと共に未だ船大工たちの出勤していない早朝のドックへと赴いた。

邸から一歩踏み出せば冷たい空気が一斉に剥き出しの頬を突き刺し、かろうじて残っていた眠気を容赦なく浚っていく。凍えてはいないかと足元の小さなパートナーを案じるが、彼は元気よくまっさらな雪の上を駆け始めたため、アイスバーグも安心して彼の後を追って歩みを進めた。

昨日から降りしきる雪により広大な敷地一面を白く彩られたドック内は実に美しいが、「こりゃ、最初の作業は雪かきからだな」などと、つい苦笑が浮かぶ。
そんなアイスバーグにつぶらな瞳を向けて一声鳴いてみせるティラノサウルスは、急に耳をピンと張ったかと思いきやドックの外方をジッと見つめ出した。
何か面白い物でも見つけたのだろうか。一点を見つめる彼に倣ってアイスバーグもドックの外へと目を向けた矢先、

「ちょっとパウリー、もっと丁重に持ちなさいよ!」

「そう言うんだったら走るなよ!」

しんと静まりかえったドックにまで届く声が約二名分。
朝から陽気に掛け合う声がだんだんと近付いてきたかと思いきや、視界に収めたドックの入り口に現れたのはアイスバーグの予想通り、彼が最も信頼を置いている二人の弟子の姿であった。

「あ!アイスバーグさん発見!」

「ンマー、お前たち。走ったら危ねェぞ」

「平気平k…ぎゃあ!?」

「うお!?」

「ハァ…ったく、相変わらずだな、お前たちは」

つい昨日は「もう子どもじゃないから平気だ」と言ってのけていた割に、パウリーの袖を引っ掴んで先陣を切った結果、前のめりになった様を見れば、やはりまだまだ彼女を大人の女性とは評し難い。しかし、いつまで経っても変わらない光景がなんだか可笑しく、つい吹き出したアイスバーグは口に手を添え、肩を小刻みに震わせるのであった。

シュア!何でお前はそう毎度毎度俺を巻き込むんだよ!」

「えへへ…わざとではないんだけど」

「ンマー、ところでお前たち今日はやけに早い出勤だな」

「当然ですよ!なんてったって今日は特別な日ですもん!」

派手にずっこけたシュアとパウリーに困惑していた小さな相棒を胸ポケットに収めたアイスバーグが二人に歩み寄ると、シュアは元気よく立ち上がりパウリーもそれに続く。そして二人はアイスバーグに向き合うと

「「アイスバーグさん、お誕生日おめでとうございます!!」」

祝いの言葉と同時にケーキの入った箱を差し出した。

「ンマー、ありがとう」

そうして受け取った箱の中身はやっぱりグチャグチャで、誰がどう見ても恩師へのプレゼントにはそぐわなく、シュアとパウリーは揃って顔を蒼ざめさせたが、ただ一人、アイスバーグだけは崩れたケーキに笑みを浮かべていたのであった。
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