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【アイスバーグ】最低最高の一日

少し肌寒い風が頬を撫でつける夜のドック内。
もう皆とっくに帰宅してしまい、業務用の大きなライトに照らされて地面に落ちる影は私のものだけ。日中の雰囲気とは打って変わって、職人たちの声や作業の音が響かないドック内はなんだか寂しい気持ちにさせる。
しかしそんな哀愁に浸っている時間もない。私はエアーブラシを手に黙々と作業にとりかかっていた。このガレーラカンパニーで私は塗装職人として努めている。女でありながらも職長まで昇りつめた自分の実力は確かなものだと自画自賛に終わることなく、アイスバーグさんや他の職人たちも認めてくれているのだが、今回、こうやって勤務時間外にも作業を行っているのは、やたら船のデザインに関して気まぐれな客のせいだ。

「まったく、完成間近になってオーダーを変更されるこっちの身にもなってほしい」

手を抜いてやろうかと一瞬悪魔のような考えが浮かんだが、そんなことをすればガレーラの名が廃るのでとにかく健気にやるしかない。

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「ンマー、シュア、まだ居たのか」

「アイスバーグさん!」

作業に没頭しているところ、背後から声をかけられ手を止めて振り向いてみると、そこには私の憧れの人が。それはもうテンションが急上昇である。

「ドックに御用ですかっ?」

「自室で資料を整理していたんだが、まとめた資料を保管庫に置きに行こうと部屋を出たら
 ドックのライトが点いていたのに気付いてな。
 誰か残っているのかと気になって足を運んでみたんだ」

資料を脇に抱えているアイスバーグさんはそう言いながら私の造っているまだ未完成の装飾品を興味深そうに眺めた。

「仕上がりが楽しみだ。ンマー、しかし気変わりの激しい客が相手だとお前も苦労するな」

「いえいえ、そんなことないですよ~」

先程まで悪態をついていた癖にアイスバーグさんの前ではエヘヘと笑顔を作って猫をかぶる。

「だが、完成間近になってオーダーを変更される身にもなってほしいんじゃねぇのか?」

「え゛、」

さっきの愚痴聞かれてたんだ…(ガーン)
あからさまに落ち込む私を見てアイスバーグさんはクスッと1つ笑みを零した。因みに笑われたことで私は更にショックを受けた。くそ、あの客め許さん。

「ンマー、今日はもう遅ぇからこのぐらいにしておけ」

「はい…」

アイスバーグさんは慰めるようにポンと私の頭に軽く手を置く。なんだか複雑な気分…。

「俺は今から保管庫に資料を置きに行ってくる。
 お前は用具の片づけが終わったら少し待っていてくれ」

「え?」

「夜道を女1人で歩くのは危険だからな、家まで送ろう」

ああ、もうその微笑が素敵過ぎて胸がキュンキュンしますアイスバーグさん…。ていうかなんて紳士なんだ…。アイスバーグさんが送ってくれるなら毎日遅くまで仕事してもいいかも。
なんてゲスな考えは置いといて、私は「お言葉に甘えます」と遠慮がちに伝えた。

「じゃ、少し待っていてくれ。
 鍵を俺の部屋に返したらそのまま部屋で待っていて構わねぇ」

そう言って去るアイスバーグさんの背中を見送ってから私はいそいそと作業用具の片づけを始める。まさかアイスバーグさんと2人きりの時間を過ごせるとは…。私にこんなチャンスを与えてくれたんだ、客よ、さっきの恨みはこれでチャラにしてやろう。
用具を一通り片づけた私はドックの扉に施錠をしてアイスバーグさんの部屋へ向かった。

アイスバーグさんの部屋に入るとハーブティーの良い香りがした。あ、もしかしてお茶淹れたてだったのに私のせいで飲めずじまいになっちゃったかな。
申し訳なく思いながら壁に取り付けられたフックに鍵をぶら下げる。ふとデスクに目を遣ると山積みの資料とお洒落なティーカップが。

「………。」

私は徐にデスクに近づくとティーカップを手にする。
アイスバーグさんがいつも使ってるティーカップ…。これに口を付けたら、アイスバーグさんと間接キスってことになるのかな?

「…って、何考えているんだ私は!変態かっ!」

でででで、でも…ちょっとだけならバレないよね…?くだらない葛藤の末、カップに口を付けようとしたその時

「待たせたな。さ、帰るか」

「ぎくぅぅぅぅぅっ!?」

なんとも古いリアクションをしてしまうほど取り乱してしまった私は勢いよくカップを受け皿に置く。しかし、そんなことをしてしまえば勢いに比例して思い切り中身が零れるのは当たり前で、カップから飛び出した液体はふんわりと優雅な香りを醸し出しつつデスクの上でティーカップと仲良く並んでいた山積みの資料に

ダ イ ブ し た…。

「NOOOOOOOOOOO!!!」

これどうしようってレベルじゃないよね!?でも、どうしようどうしようどうしようどうしようどうし…ゲホッゲホッ!!アイスバーグさんに醜態を曝してしまうだけでなく大事な資料を汚してしまうなんて…!
唖然としている私をよそに目の前の資料は見る見る内に水分を吸収していっている。段々と大きくなる染みは私の絶望を表現しているようだった。

「ンマー、シュア、そんなに喉が渇いていたのか」

なんでそうなるんだ…。アイスバーグさんて鈍感なのかな?いや、でも今ので普通感付くでしょ。私がアイスバーグさんに思いを寄せていることを通り越して変 態 だということに。
きっとこんな私にどん引きしてるけど気を遣って気付かないフリをしているんだ。ああ、思考がどんどんネガティブの方向に…。いや、でも今はそんなことより

「アイスバーグさん…ごめんなさい。大事な資料汚しちゃいました…」

「ンマー、気にするな」

アイスバーグさんは優しくそう言って「よしよし」と頭を撫でてくれるけれど私はうな垂れるしかなかった。
思えば今日は嫌なことばかりだ。1人遅くまで残って仕事して、愚痴を吐けばそれをアイスバーグさんに聞かれて、でもアイスバーグさんが送ってくれるって言ってくれて浮かれてたら今度は変態染みた行為を目撃されて挙句の果てに大事な資料をお粗末に…。
アイスバーグさん、もう呆れてるよね?私のこと嫌いになったかも…。そう思うとなんだか泣けてきた。ここで泣いたらアイスバーグさんが迷惑に思うことぐらい分かってるのに、でも堪えようと思えば思うほど気持ちがこみ上げて、ついに私の意に反して涙が零れ落ちてしまった。
好きな人の前でなんて様だ。もう明日から職場に来れない。さよならガレーラ、私は晴れてニートの道を歩みます…。

そんなことを思った矢先、不意にアイスバーグさんの大きな手が私の両頬を包み込み、そのまま上を向かされたかと思えば「ちゅっ」という音と共に私のおでこに柔らかい感触。
…私、今おでこにキスされた?驚きと嬉しさで溢れていた涙がピタリと止む。

「そんな思い詰める必要はねぇ。実はあの資料はもう捨てる資料なんだ」

「えっ、そうなんですか!?」

「ああ、必要な資料はさっき保管庫に置いてきた」

なんだ…そうだったのか…よかった…。
泣いてしまった原因は他にも沢山あったけど資料を汚してしまったことでアイスバーグさんに迷惑をかけずに済んだという事実だけでも充分気が救われた。
あ…、安心したらまた涙が出てきちゃった。

「お前はコロコロと表情が変わって面白いな。
 ンマー、そういうところが可愛くて俺は好きだが」

うそ…アイスバーグさんが私のこと可愛いって言ってくれた。しかも好きって…!
うん、恋愛対象としての好きじゃないってことぐらいわかってる。
だけど、もう少し甘えてもいいかな?きっと、こんなおいしい状況もう一生ないだろうから…。

「アイスバーグさん、さっきのもう1回…してもらっていいですか…?」

小さく呟いたらアイスバーグさんは少し目を見開いて驚いた顔をした。やっぱり図々しかったかな…って不安に思ったけれど、それでもアイスバーグさんは頬に添えた手をそのままにして顔を近づけてきてくれたから反射的に目を閉じたら熱を感じたのは何故かおでこじゃなくて唇。

「え…」

思わず瞼を開けるとものすごく近い距離でアイスバーグさんと目が合った。
は、恥ずかしい…。だけどその真剣な眼差しで見つめられると目を反らせない。

「ンマー、社長と社員という関係上、お前の気持ちに気付かないようにしようと思っていたが、
 そういう風にせがまれたら落ちねぇ男はいねぇだろう?」

少し苦笑を帯びた笑みを見せるアイスバーグさん。あれ、これって自惚れてもいいのかな?嬉しさでフリーズを起こしている私にアイスバーグさんは「嫌だったか?」と不安気に伺ってくるけれど、いえいえ、嫌なわけないじゃないですか。むしろ嬉しすぎて…

「もっかいしてほしいです…」

アイスバーグさんはフッと笑うと私の唇にまたキスを落としてくれる。今度は少し長めのキス。

「もっかい…」

「ンマー、抑えられなくなっちまうぞ」

アイスバーグさんは私を軽々とお姫様抱っこするとそのままベッドまで運ぶ。そして私を押し倒すや否やもう催促する暇などないぐらい貪るような激しいキスを何度も繰り返した。

アイスバーグさん、私、今日は本当に嫌なことばかりで最低最悪な1日だったけれど、今はすごく幸せな気分です。
言葉にできない代わりに繋いだ手を握るとそれに応えるようにアイスバーグさんもキュッと手を握り返してくれた。なんだかその行為がすごく嬉しくて、私はまた幸せな気持ちになった。
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